書評

『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)

  • 2020/01/17
潜行~地下アイドルの人に言えない生活 / 姫乃 たま
潜行~地下アイドルの人に言えない生活
  • 著者:姫乃 たま
  • 出版社:サイゾー
  • 装丁:単行本(199ページ)
  • 発売日:2015-09-22
  • ISBN-10:4904209826
  • ISBN-13:978-4904209820
内容紹介:
地下アイドルの耳の痛い話、枕営業、整形、愛人契約、風俗、AV女優…"誰でもなれる"地下アイドルたちの悲喜交々。さとり世代の地下アイドルステップアップ論、なにもなかったわたしが地下アイドルシーンに居場所を見つけるまで。わたしのアイドル観察記、アイドルとは、結局のところ、どんな存在なのか。恋、仕事、心の病…様々な問題と向き合って。

現代の難問と格闘の記録

地下アイドルとドルヲタを繋ぐ渇望

まず頭に入れていただきたいのは、「地下アイドル」という呼称は蔑称であるということだ。由来は諸説あるが、「地下」という語感からだけでも避けられる気分は何となくわかるだろう。

本書の著者である姫乃たまは、その「地下アイドル」を自称している。蔑称をあえて自称することには、その人の意志が介在しているから、受け取る側もその意志を意識する。すぐに浮かぶのは、逆張りの悪目立ちを狙ってるんじゃないかとか、その反対に自虐的に卑下しているんじゃないかという考えだが、彼女の場合はそのどちらとも(多少は入っているかもしれないが)違っている。

地下アイドルという文化を、今の社会に必然としてあるものであると見定めており、そここそが自分の居場所であると決めて、しなやかに――というにはちょっとジグザグしているけれど――アイデンティファイしているのだ。

姫乃たまの最大の個性は、この醒めた、しかし肯定的な地下アイドル意識にある。

この本は、いくつかの対談を挟みつつ、全体としては三部構成になっている。

第一部にあたる「地下アイドルの耳の痛い話」は、彼女が地下アイドルとしての活動を通して知った、自分や、他の地下アイドル、アイドルヲタクをめぐる生々しいエピソード。第二部にあたる「さとり世代の地下アイドルステップアップ論」は、彼女自身の活動記録と、その経験に基づいた当事者としての地下アイドル論。第三部にあたる「わたしのアイドル観察記」はその中間くらいの、地下アイドルをめぐるエッセイといったところか。第一部と第三部はウェブメディアでの連載に加筆修正したもの、第二部は書き下ろしである(大学の卒論がもとになっているそうだ)。

今の話で注目してほしいのは、彼女がウェブとはいえすでに連載を持つライターでもあり、この本はライターとしての活動が評価されたがゆえに出版されるに至ったという事実である。

評者が姫乃たまという人を認知(アイドル用語ですよ)したのも、ウェブで話題を呼んだとある文章でのことだった。彼女の容姿も活動も知らなかったし、白状すると読んだ後も名前さえろくに覚えなかった。ただその文章の記憶だけが残った。

それから数ヶ月後、あるイベントでまったく偶然に出演者同士として顔を合わせることになったのだが、誰だかわかっておらず、楽屋で様子を見ながら話すうちに「あれ? もしかしてあの文章を書いた人!?」とバシッと人と文が結ばれたのだった。だから僕にとって姫乃たまは、地下アイドル云々以前に、まず文章を書く人なのである。

枕営業や事務所社長との肉体関係、落ち目になったトップアイドルの肉弾アプローチ、ふわふわしたロリータ服に隠されたリストカット痕、アイドルヲタたちの常軌を逸した行動。自身についても、辞め時を見計いながらずるずると機を逃し、鬱を病みつつも活動を続けている心境と理由を書く。トピックだけ並べるとスキャンダラスなようだが、筆致は冷静で、自身すらも相対化してしまうほどに分析的だ。

といって突き放しているわけではなく、地下アイドルでしか在りえないこと、アイドルヲタでしか在りえないこと、そんな、いってしまえば歪な在り方同士の交流というかたちでしか癒やされえない、だが永遠に癒やされ尽くされることのないだろう渇望に対する慈しみと自覚に一切は満ちている。

ある種の達観といえばいえそうな透徹した観念にわずか二十二歳の女の子が到達していることに驚くが、地下アイドルとして生きた六年間は、それほどに濃密な時間だったということだろう(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2015年)。

地下アイドルとドルヲタを繋ぐ渇望は、特殊なようでいて現代人一般に通じている。それは大袈裟にいえば、生きることの意味というようなものだ。

評者にとって謎だったのは、地下アイドルよりもむしろドルヲタのほうだった。なぜ大した見返りもないアイドルに湯水のように金を注ぎ込むのか。アイドルを追っかけるという果てのない行為に、中高年の男どもまでが仕事そっちのけで没頭し人生の貴重な残り時間を濫費しているのは何なのか。

姫乃たまのこの処女作はそんな、渇望という現代の難問に、自分なりの答えを見つけ出すべく潜行し格闘した記録なのである。
潜行~地下アイドルの人に言えない生活 / 姫乃 たま
潜行~地下アイドルの人に言えない生活
  • 著者:姫乃 たま
  • 出版社:サイゾー
  • 装丁:単行本(199ページ)
  • 発売日:2015-09-22
  • ISBN-10:4904209826
  • ISBN-13:978-4904209820
内容紹介:
地下アイドルの耳の痛い話、枕営業、整形、愛人契約、風俗、AV女優…"誰でもなれる"地下アイドルたちの悲喜交々。さとり世代の地下アイドルステップアップ論、なにもなかったわたしが地下アイドルシーンに居場所を見つけるまで。わたしのアイドル観察記、アイドルとは、結局のところ、どんな存在なのか。恋、仕事、心の病…様々な問題と向き合って。

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週刊読書人

週刊読書人 2015年12月11日

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