後書き

『インド神話物語 マハーバーラタ 上』(原書房)

  • 2019/05/01
インド神話物語 マハーバーラタ 上 / デーヴァダッタ・パトナーヤク
インド神話物語 マハーバーラタ 上
  • 著者:デーヴァダッタ・パトナーヤク
  • 翻訳:沖田 瑞穂, 村上 彩
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2019-04-24
  • ISBN:4562056495
内容紹介:
インド神話の壮大な叙事詩『マハーバーラタ』の物語を再話し、挿絵つきの読みやすい物語に。マハーバーラタ入門として最適の一冊。
その名前は誰もが知っているが実際に読んだ人はほとんどいない――神話や長大な古典にはよくある話です。
なんともったいない!
映画『バーフバリ』や人気RGPの想像力の源泉となった、神々と英雄が織りなす壮大な物語であるインドの「マハーバーラタ」も、ここ日本ではずっとそんな不幸な状況でした。本書『インド神話物語 マハーバーラタ』(上下)は、この絢爛豪華な、そして長大な神話を、サンスクリッド語原典の流れに即し、読みやすく胸躍る物語に生まれ変わらせた作品です。
インド神話、比較神話学の研究者にして、ユニークな論考で知られる本書監訳者・沖田瑞穂氏の「監訳者あとがき」を抜粋して紹介します。

伝説と神話の源泉へ

本書はインドのデーヴァダッタ・パトナーヤク著 “JAYA An Illustrated Retelling of the Mahabharata”(Penguin Books India, 2010)の全訳である。邦題は『インド神話物語 マハーバーラタ』とし、原著では一巻本であるが、読者の便宜のため翻訳では二巻に分けた。

著者のパトナーヤク氏はインド神話についての卓越した文筆家であり、現代インドの社会と文化に関する言論活動も活発に行っている。TEDでスピーチをしたり、ネットを活用して講義をポッドキャストで配信するなど、その活動は多彩である。

本書は神話を知悉する現代インド人の著者が英語で再話した現代版『マハーバーラタ』として、きわめて価値の高いものである。著者自身によるイラストとともに楽しんでいただけたら幸いである。

日本における『マハーバーラタ』翻訳の現状

『マハーバーラタ』の原典はインドの古典語であるサンスクリット語で書かれており、全18巻より成る。その文体は韻文であって、十万もの詩節によって構成される。非常に巨大な物語であり、世界最大級の叙事詩とされている。

その長大さゆえに、原典からの全訳は困難で、現在日本には上村勝彦氏による第八巻の途中までの原典訳しかない(『原典訳 マハーバーラタ』ちくま学芸文庫)。その他は、子供向けの再話や、英語の完訳からの重訳の抄訳がある。山際素男氏の訳(『マハーバーラタ』三一書房)は重訳の抄訳であっても大部のもので、容易には手を出しかねる。

そういった中、本書は手に取りやすい二分冊という形で、この大叙事詩の全体像を知ることができる。その物語はサンスクリット語原典の流れに即しつつ、様々な異本、各地域の民間伝承、現代の伝承などを取り入れている。そのことによって本書は『マハーバーラタ』という書物がひとつの確定されたテキストではなく、それ自体有機的に成長し変化していく「生物」であることを示している。そう、『マハーバーラタ』はひとつではないのだ。

『マハーバーラタ』サンスクリット語原典あらすじ

『マハーバーラタ』の作者は作中人物でもある伝説的な聖仙ヴィヤーサであると伝えられている。しかしこの巨大な叙事詩が一人の作者によって書かれたはずはなく、相当な長期間、およそ紀元前四世紀頃から紀元後四世紀頃の間に、多くの詩人たちの手によって次第に形作られたものと推測されている。

その主題はバラタ族の王位継承問題に端を発した大戦争である。物語の主役はパーンダヴァ(「パーンドゥの息子たち」という意味)と総称されるパーンドゥ王の五人の王子と、彼らの従兄弟にあたる、カウラヴァ(「クル族の息子たち」という意味)と総称される百人の王子である。この従兄弟同士の確執は一族の長老、バラモン、英雄たちに波及し、周辺の国々をも巻き込んで、やがてはクルの野、クルクシェートラで一八日間に行われる大戦争に至る。

(中略)

翻訳にあたって

私が原著と出会ったのは、三年ほど前、イラストの入った読みやすい英語の『マハーバーラタ』を探していた時のことであった。かつての教え子が、それならこういう本がある、と教えてくれた。早速入手して読んでみたところ、『マハーバーラタ』の複雑な物語がコンパクトに収まり、魅力的なイラストと相まって素晴らしい一冊であると思った。なんとか、この本を日本に紹介したい。

そこで、懇意にしていた翻訳者の村上彩先生に翻訳いただけないかご相談し、快諾を得た。

訳出に際しては、英語は村上先生が、サンスクリット語原典との照合と表記については沖田が、それぞれ担当した。原著ではヒンディー語の固有名詞は、『マハーバーラタ』がもともとサンスクリット語の神話であることを考慮し、多くの場合サンスクリット語の表記に改めた。ただし、ヒンディー語など現地の多様な言語での特有の伝承の固有名詞についてはこの場合でない。

村上先生の卓越した翻訳技術により、美しい日本語で読者の皆さまにお届けできることが嬉しくてならない。

[書き手]沖田瑞穂(中央大学/日本女子大学/白百合女子大学非常勤講師・神話学者)
インド神話物語 マハーバーラタ 上 / デーヴァダッタ・パトナーヤク
インド神話物語 マハーバーラタ 上
  • 著者:デーヴァダッタ・パトナーヤク
  • 翻訳:沖田 瑞穂, 村上 彩
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2019-04-24
  • ISBN:4562056495
内容紹介:
インド神話の壮大な叙事詩『マハーバーラタ』の物語を再話し、挿絵つきの読みやすい物語に。マハーバーラタ入門として最適の一冊。

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