書評

『近代日本のメディア・イベント』(同文舘出版)

  • 2019/05/17
近代日本のメディア・イベント / 津金沢 聡広
近代日本のメディア・イベント
  • 著者:津金沢 聡広
  • 出版社:同文舘出版
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • ISBN-10:4495862812
  • ISBN-13:978-4495862817
内容紹介:
イベント文化の形成史。明治以降、マス・メディア産業や国家、興業資本によって企画・演出された数々のイベントは日本独特の文化を形成した。

着想ユニークな野心的試み

新聞の書評に取り上げる本は、旬の物と相場が決まっている。その目安からすると、本書については、完全に証文の出し遅れとなってしまった。なぜそうなったのか。答えは簡単だ。一刻を争って取り上げる必要の無い内容だったからである。

むろん、平凡だとかつまらないとかいうわけではまったくない。むしろ逆に着想のユニークさに脱帽という思いがあった。今日では日常化したマスメディアによって企画・演出されるイベントの源流を、近代化過程の中に探るという野心的試みなのだから、面白くない筈(はず)がないではないか。

十四人で十二の項目を扱った論文集の体裁。全国優勝野球大会、ラジオ体操、講道館のイベント戦略、河北新報の「健康祭」、両国国技館の納涼イベント、大阪中央放送局の「団体聴取運動」、大阪毎日新聞の事業活動、ジャーナリズムと美術、大阪朝日新聞の子どものための文化事業、新聞社の音楽事業などなど。どこから読んでもいずれ劣らず読者の興味と関心を惹(ひ)きつける。

あたかも新聞のそれこそ社会面をながめるような面持ちでいるうちに、はたと気がついた。やはり、メディアは関西に始まれりなのだ。だからメディア・イベントもまた明治以来、常に関西が主導権をもって展開してきた。のみならず地方紙が、地域性を生かしたイベント戦略を考えている様子がうかがえる。

一九三〇年代に「河北新報」が主催した「健康祭」が、当初東北という地域性に根ざした農村不況と医療の貧困への自覚からスタートし、やがて戦時体制と共に全国レベルの体位向上運動へと転換していく様は示唆的だ。また東京は国技館の納涼イベントも、毎年国内各地はおろか、北は樺太から南は南洋までの植民地を含めた風物企画のオンパレードであった。

こうして関西系優位の形でメディア・イベントが形作られ、地方色豊かな企画が喜ばれたのは一九三〇年代までだったのではないか。昭和初めのラジオ体操にいたって、東京発信モードの端緒が生まれ、やがて戦争がすべてのメディア・イベントを全国化=東京化していったと見ることは、充分可能だ。

巻末の事業年表も、見ているだけで楽しい。御披露目が遅くなったが、当分他の追随を許さないという点で、「新刊書」の資格充分。

【この書評が収録されている書籍】
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN-10:4643970472
  • ISBN-13:978-4643970470
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

近代日本のメディア・イベント / 津金沢 聡広
近代日本のメディア・イベント
  • 著者:津金沢 聡広
  • 出版社:同文舘出版
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • ISBN-10:4495862812
  • ISBN-13:978-4495862817
内容紹介:
イベント文化の形成史。明治以降、マス・メディア産業や国家、興業資本によって企画・演出された数々のイベントは日本独特の文化を形成した。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1996年11月24日

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