退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
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いま現在、彼女は少しずつ、気づかれないことをたのしんでいるように、ほんの僅かずつ綻んできている。綻びつつあるのがうれしいのは、何も人間の顔だけではない、と彼は思った。
高原の道を歩きながら、彼女はもう半分しか彼の話を聞いていないし、そのうち聞くことさえやめたらしかった。それはひどく淋しいことで、絶望的ともいえた。
それに近い経験は度々あった。ただ、得意であり自信の元でもあった高原の中の道でのことであり、根本的なことに関してであった。
「問題は脈絡のことである」
彼は口に出していったかもしれない。山全体に匹敵するくらい、重くて重大なことがそこにあった。
彼女は道にしゃがんで顔を隠した。そうしているのが彼自身であるように見えた。
彼女は今、かつてのような料理を作ることができない。料理というものはそもそも何であるか、ということが分らなくなり始めている。