書評

『花さき山』(岩崎書店)

  • 2022/04/09
花さき山 / 斎藤 隆介
花さき山
  • 著者:斎藤 隆介
  • 出版社:岩崎書店
  • 装丁:ハードカバー(32ページ)
  • 発売日:1969-12-30
  • ISBN-10:4265908209
  • ISBN-13:978-4265908202
内容紹介:
山菜をとりにいって、山ンばに出会ったあや。やさしいことをすると美しい花がひとつ咲くという花さき山の感動のものがたり。

「花さき山」に花が咲くとき

作家の柳田邦男さんにお目にかかったとき、「絵本は、人生で三度読むものですよ。一度目は子ども時代、二度目は親になったとき、三度目は人生の後半に自分のために……」というお話をうかがった。ちょうど今の自分は、親になって、絵本と二度目の出会いをしているところだ。

花さき山』は、名古屋の叔母からプレゼントされたもの。「人生後半の愛読書」なのだと言う。

主人公のあやは、山のなかで道に迷う。そして一面に花の咲くところで、山ンばに出会い、なぜこのように花が咲いているかを教えられる。

「この花は、ふもとの村のにんげんが、やさしいことをひとつするとひとつさく」。

あやの足もとに咲いている赤い花。それは、あやが妹のために、祭りの着物を我慢したときに咲いたものだった。

人が人として大切なことをしたとき、そのご褒美(ほうび)が「人知れず山のなかで花が咲く」というところが、いい。何かをもらえるとか、いいことがあるとか、みんなに褒められるとか、ではない。人知れず、花が、咲く。そのことを誇りに思い、嬉しく感じられなくては、そのやさしさは本物のやさしさとは言えないだろう。

切り絵の力強い線と、簡潔な色も、この絵本の魅力だ。「花さき山」のメッセージを、静かな迫力をたたえながら、伝えてくれる。

幼い息子も、じっと耳をかたむけてくれた。見開き一面の花のページにきたとき、「このなかに、自分が咲かせた花、あると思う?」と聞いてみると、しばし沈黙。やがて青い花を指さした。

「この花?」

「うん。このまえ、りんくんに、あおいくまちゃん、かしてあげたから」

りんくんは、一歳年下のいとこだ。よく遊び、よくケンカもする。

「ねえ、この白い花も、そうかもしれないよ」と、今度は私が指をさした。

「なんで?」

「幼稚園の先生から聞いたんだけど、おともだちが牛乳をこぼして泣いちゃったとき、自分からぞうきんを持ってきて、一緒に拭(ふ)いてあげたんだって? そのとき、きっと咲いたと思うなあ」

ちょっと恥ずかしそうに、でも神妙な顔をして聞いている息子。これからも、いろんな花を、咲かせていってほしいなと思う。

七十歳近い叔母、子育て中の私、そして幼い子ども。『花さき山』は、人生のどの段階で出会っても、心にうるおいを与えてくれる、そんな絵本だ。

花ことば「やさしい」という青い花一輪胸に咲かせて眠る

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

花さき山 / 斎藤 隆介
花さき山
  • 著者:斎藤 隆介
  • 出版社:岩崎書店
  • 装丁:ハードカバー(32ページ)
  • 発売日:1969-12-30
  • ISBN-10:4265908209
  • ISBN-13:978-4265908202
内容紹介:
山菜をとりにいって、山ンばに出会ったあや。やさしいことをすると美しい花がひとつ咲くという花さき山の感動のものがたり。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2007年9月27日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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