退屈な読書
- 著者:高橋 源一郎
- 出版社:朝日新聞社
- 装丁:単行本(253ページ)
- 発売日:1999-03-00
- ISBN-13:978-4022573759
- 内容紹介:
- 死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。
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売る物は張伯達に作り方を教えてもらった。張は鳥獣仕掛けの靡爛(びらん)内爆弾で皮膚から筋肉まですべて灼(や)け爛(ただ)れてしまったので、全身解体手術を受け、今では脳髄だけだ。それでも脳髄だけでも残っていれば、政府の集合思考慰撫(いぶ)センターが再開復活するとそこでの仕事に優先就業することができる。
……。
張が教えてくれたのはこの地方(あたり)に沢山群生している火焔麦(かえんばく)と野生化したバイオ果球、タマニギリの実を粉にして、そこからある種の饉飩(こんとん)をつくることだった。火焔麦の穂は小さくて実が薄く、たとえそれを粉にしても色が毒々しいまだら紅梅なので、使い方が難しい。しかしこれにタマニギリの実を粗く粉砕したものを加え、半如水(はんにょすい)で捏(こ)ねて熱を加えると、赤紅色が相当に薄くなり、不思議にねっとりとした芳香をたてるようになる。そうして出来た饉飩は、そのままにしておくと固くひきしまり、数日間は日保(も)ちする。(「饅鈍(こんとん)商売」)