書評

『秘蔵古写真 江戸』(山川出版社)

  • 2019/12/12
秘蔵古写真 江戸 /
秘蔵古写真 江戸
  • 監修:日本カメラ博物館
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(255ページ)
  • 発売日:2019-08-30
  • ISBN-10:4634151510
  • ISBN-13:978-4634151512
内容紹介:
日本カメラ博物館所蔵の、江戸から明治初期の細部にわたる貴重な風景、今は亡き、大仏や建物群の写真などの古写真を掲載。

伝承と物語の共有が町を維持する秘訣なのだ

本書は古写真集である。幕末・明治初期の写真師、下岡蓮杖(れんじょう)、横山松三郎(まつさぶろう)、内田九一(くいち)、ベアト、スティルフリードなどの作品と、日本カメラ博物館所蔵の2冊のアルバム、『大日本東京寫眞名所一覧表』(明治期の東京の行政区画であった15区と5郡ごとに撮影したもの)と『大日本全国名所一覧寫眞帖』(イタリア全権公使バルボラーニ伯爵が土産として持ち帰り、かつ日本へ里帰りした)の中から写真が選ばれ、幕末の「江戸」と草創期の「東京」の姿を伝える。

かつては土地は絶対的な財産であった。不動産、つまり技術的に改変のきかぬものであり、時がたっても変わらない資産である、と認識されていた。いまは機械を用いれば形自体が変わってしまう。けれど、この写真集が選んだ土地は、幸いなことに昔のままであるものが少なくない。それぞれの写真に接すると、ああ、あそこだ!と100年以上前といまの風景が二重写しになって甦(よみがえ)る。

明治の建物は一つ一つが美しい。それはおそらく屋根の形状が生み出すものではないか。いまは土地を有効利用するため、直方体のビルが多く並び立つ。それはそれで機能美を生む。だが明治のころはまだ土地に余裕があるし、高層の建物は建てられないので、必ず建物が屋根をもつ。さまざまな屋根のフォルムが、建物に個性をもたらしている。

町づくりのサステナビリティ(持続可能性)を考えるとき、ぼくは決め手は伝承と物語だ、と主張している。その地はどのような経過をへて現在に至るのか、そこにどんな歴史があり、物語があるのか。それをしっかりと住人が共有したときに、愛郷心が生まれ、町は後代まで維持されていくのではないか。古写真というツールは、そのときにきわめて有効である。
秘蔵古写真 江戸 /
秘蔵古写真 江戸
  • 監修:日本カメラ博物館
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(255ページ)
  • 発売日:2019-08-30
  • ISBN-10:4634151510
  • ISBN-13:978-4634151512
内容紹介:
日本カメラ博物館所蔵の、江戸から明治初期の細部にわたる貴重な風景、今は亡き、大仏や建物群の写真などの古写真を掲載。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年11月17日号

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