書評

『秘蔵古写真 紀行』(山川出版社)

  • 2020/06/17
秘蔵古写真 紀行 / 日本カメラ博物館
秘蔵古写真 紀行
  • 著者:日本カメラ博物館
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(255ページ)
  • 発売日:2019-12-21
  • ISBN-10:4634151588
  • ISBN-13:978-4634151581
内容紹介:
日本カメラ博物館所蔵の、幕末から明治初期の北海道から九州までの風景と風俗を中心に日本を活写する貴重な古写真を掲載。

人々が肩を寄せ合い暮らしていたさまを思う

幕末から明治初年にかけて、多くの外国人が「未知の国」日本にやって来た。その中には写真家も含まれていて、彼らは日本の風景を写し、本国に伝えた。また彼らの活動に触発され、日本人の写真家も現れた。本書は彼らが残した貴重な古写真を発掘し、説明文を付して収録する。北は北海道から南は沖縄まで、日本各地の風景写真が『秘蔵古写真 紀行』のタイトルのもとに並んでいる。『幕末』『江戸』に続くもので、本書をもってシリーズは完結となる。

どの写真もさまざまな意味で興味深いのだが、その一つとして、ぼくは「高さ」という要素に注目してみたい。現代の都会には高いビルが林立するが、当時の建物は平屋か2階建てである。城下町や宿場町には木造の簡素な建物が、隙間なく軒を連ねている。背の高い建物というと、お城だったり小高い地に鎮座する神社仏閣だったり、身分の高い人たちのものであった。

今なお健在で国宝や重要文化財に指定されている「高い」建築物は150年前も美しいのだが、より多くの人々が肩を寄せ合うようにして住んでいたであろう建物の並びが、図らずも一定のリズムを生み出していて、たいへんに魅力的である。ぼくたち歴史研究者はつい有名人の名のみをもって時代を叙述してしまうことが多いが、それと同時に大切なことは、その時代の「ごく普通の人たち」がどのように生きていたかを明らかにすることである。「高い」建物ばかりではなく、素朴な建物の重なりも、日本らしくて味わい深いものだな。ここを場としてぼくらの先輩たちの喜びや悲しみがあり、生活が営まれていたのだな。古写真を眺めてそんなことに思いを馳せるひとときは、実に良いものである。春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)。早春の夜の酒杯のお供に、ぜひ。
秘蔵古写真 紀行 / 日本カメラ博物館
秘蔵古写真 紀行
  • 著者:日本カメラ博物館
  • 出版社:山川出版社
  • 装丁:単行本(255ページ)
  • 発売日:2019-12-21
  • ISBN-10:4634151588
  • ISBN-13:978-4634151581
内容紹介:
日本カメラ博物館所蔵の、幕末から明治初期の北海道から九州までの風景と風俗を中心に日本を活写する貴重な古写真を掲載。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2020年3月15日増大号

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