内容紹介

『〈概念工学〉宣言! ―哲学×心理学による知のエンジニアリング―』(名古屋大学出版会)

  • 2019/12/23
〈概念工学〉宣言! ―哲学×心理学による知のエンジニアリング― /
〈概念工学〉宣言! ―哲学×心理学による知のエンジニアリング―
  • 翻訳:戸田山 和久,唐沢 かおり
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(292ページ)
  • 発売日:2019-03-15
  • ISBN-10:4815809410
  • ISBN-13:978-4815809416
内容紹介:
概念工学とは、人類に有用な概念を創造・改定する新たな学である。本書はその理論と実践展開を初めて提示、豊饒な可能性を約束する。
近年、哲学界隈で話題になっている「概念工学(conceptual engineering)」。哲学と心理学のコラボレーションにより、この新しいリサーチプログラムの構築にチャレンジした『〈概念工学〉宣言!』が、哲学フォーラム等で取り上げられ、いま読まれています。哲学の新しいイメージ、新しい語り方である「概念工学」はなにを目指すのか。そして『〈概念工学〉宣言!』はどのように位置づけられるのか。書籍から一部抜粋してご紹介いたします。

「概念工学」とは何か

本書のタイトルにある「概念工学」という耳慣れない言葉は何であろうか。概念工学とは、われわれの生にとって、あるいは人類の生存にとって重要な諸概念を、よりよい社会の実現やよりよい個人の生き方に貢献することが可能となるように、設計ないし改定、つまりエンジニアリングすることを目指す、今のところまだ存在しない研究領域である。とは言うものの、これは哲学の自己理解としてそれほど奇異なものではない。哲学は概念を創造するとはよく言われることだ。また、これはプラグマティズム風に響くかもしれない。まったくその通りであって、哲学史的に述べるならば、概念工学とは、自然主義という形で現代哲学に流れ込んでいるプラグマティズムの流れが、フレーゲ以来のもう一つの伝統、つまり概念分析としての哲学を飲み込む形で成立する、哲学の理念であると言える。

哲学と心理学(とりわけ社会心理学)とは、共通の対象を探究してきた。それらはともに、自由意志、意図、自己、行為者性、責任、公平さ、因果等々、個人や社会の在り方にとって重要な概念を探究する。そして、両者は探究のレベルないしアプローチも共有しているように思われる。それらはともに、これらの概念の本性に関心をもつと同時に、人々がそれらの概念をどう捉えているかをも問題にしようとしているからだ。

哲学と社会心理学の実り豊かなコラボレーションが来るべき概念工学の基盤となる、というのが本書の基本的立場である。ところが、これまでのところ両者の関係は「実り豊かなコラボレーション」と言うには程遠い状況にあった。両者はとても似通ったところのある探究活動であるにもかかわらず。しかしながら、双方の分野に属する若手研究者たちの努力により、共同研究の試みがなされつつあるのは心強い。本書のねらいは、そうした萌芽的とりくみをさらに次のステージへと高めることにある。



最初に本書の企画を議論したのは、いまはもう歴史の彼方に過ぎ去ってしまったが、2015年頃だったと思う。実験哲学なるものが日本でも認知され始め、「一般の人たちの概念理解を明らかにすること」の意義が哲学、心理学の各領域であらためて論じられることになった頃だ。そのうち戸田山が「哲学はいっそのこと概念工学になってしまえばいいのだ」という、あいも変わらず乱暴な構想を語りだした。これまた例によっていずれかの飲み会の席で、その話を聞いた唐沢は、「社会心理学も概念工学的側面を持つんじゃないの」と答え、以降、有意義な接点と健全な行き先を見つけるために、それぞれの専門領域の方法論批判を行いつつ、まずはやってみましょうか、という話になった。しかも、哲学と心理学が「ガチ」で議論しこの領域を作ることが必要だ、などといきまき、(1)まず、戸田山、唐沢が哲学、心理学の立場から、概念工学の理念について論じる、(2)それをふまえ、心理学者が個別の概念について、概念構築の歴史、成果、問題点などを論じる、(3)心理学者の議論を踏まえた上で、哲学者が個別概念の工学に向けた道を示すための論考を行う、(4)唐沢、戸田山が、それら個別概念に関する心理学者と哲学者のコラボレーションの成果を総括して今後の展開を描く、という、えらく手間隙のかかる企画を立ち上げてしまったわけだ。

この営みに参加してくださった6名の哲学者、心理学者各位には、執筆にあたって、相当なご苦労をかけたと思う。そもそも、異分野が何を目指し、どのような研究を進めているのか理解することだけでも簡単ではない。何度か編集会議の場をもち、自分の執筆内容について、その内容を説明しあい、調整が必要な箇所を同定し、その議論を持ち帰って原稿を書き直すことを何度か繰り返し、ようやくたどり着いた最終稿のファイルには、おおむねVer.6とかVer.7とかがつくことになった。加えて、「コラボの成果を総括して概念工学の展望を描く」って、言うは易く行うは難し。難渋する編者2名の原稿は遅れに遅れ、出版までかなりお待たせすることになってしまった。

さて、読者各位は、概念工学という「概念」について、どのような理解を持ち、またその目指す方向について、どのような評価を下されたのだろうか。もとより、「概念工学」という新領域を華々しく立ち上げて、そこにみんなで移ってきてちょうだいと呼びかけるような大仰な話ではない。まず望むのは、哲学と心理学の自己理解を拡大しつつ、日常的な研究の中で、概念工学的な視点を踏まえた検討が増えることだ。それらの蓄積は、やがて「よりよい生き方・社会のあり方」に関する考察と、その実現に向けた営み、つまり統合領域としての概念工学への確立へとつながっていくだろう。概念工学の「宣言」はそのようなビジョンのもとになされている。

※本文は『〈概念工学〉宣言!』の「はじめに」および「あとがき」から抜粋しました

[書き手]戸田山和久(哲学)、唐沢かおり(社会心理学)
〈概念工学〉宣言! ―哲学×心理学による知のエンジニアリング― /
〈概念工学〉宣言! ―哲学×心理学による知のエンジニアリング―
  • 翻訳:戸田山 和久,唐沢 かおり
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(292ページ)
  • 発売日:2019-03-15
  • ISBN-10:4815809410
  • ISBN-13:978-4815809416
内容紹介:
概念工学とは、人類に有用な概念を創造・改定する新たな学である。本書はその理論と実践展開を初めて提示、豊饒な可能性を約束する。

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