書評
『世界の果ての庭』(東京創元社)
英国式庭園を愛する女性作家の話(A)、どんどん若返る奇病にかかった母親を持つ女子高生の話(B)、女性作家の恋人のアメリカ人が研究テーマにしている国学者・富士谷成章&御杖親子の評伝(C)、江戸時代の都市伝説を集めた『耳嚢』風の辻斬りをめぐるミステリアスな話(D)、無限の空間が続く駅世界に迷いこんだ脱走兵のSF小説風の物語(E)。第一四回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品『世界の果ての庭』は、五本のショート・ストーリーを全五五章に分割、再構成したトリッキーな作りが魅力的な一冊だ。
はじめは、バラバラな物語が点々とちらばっている散漫な印象にとまどうかもしれないけれど、A→B→C→D→A→B→A→E→C……と読み進めていくうち、各編のモチーフが互いに袖振りあう程度に淡くリンクしていることに気づかされるはず。女性作家のエピソード(A)を中心に、その他の物語が時に共鳴しあい、時に入れ子のように互いを呑み込みながら上品な室内楽を奏ではじめ、その端正な音の流れに、いつしかしっくりと馴染んでいくといった読み心地に変化していくのだ。
こういった構成の場合、それぞれの物語を最後にはひとつのテーマに収束させるといった手を、大抵の作家は使うものだけれど、西崎さんはあえてそれを封印している。五つのミステリアスな物語を、謎は謎として残したまま、開いた形で読者に手渡すのだ。そのことによって、読者は目に見えて、手で触れることのできるこの現実世界の裏側に潜んでいるのかもしれない、たくさんの謎に満ちた世界、その存在を予感することができる。五つの異なるレベルの語りが見せてくれる不思議な光景。重層的な味わいに満ちたファンタスティックな一冊なのである。
【Kindle版】
【この書評が収録されている書籍】
はじめは、バラバラな物語が点々とちらばっている散漫な印象にとまどうかもしれないけれど、A→B→C→D→A→B→A→E→C……と読み進めていくうち、各編のモチーフが互いに袖振りあう程度に淡くリンクしていることに気づかされるはず。女性作家のエピソード(A)を中心に、その他の物語が時に共鳴しあい、時に入れ子のように互いを呑み込みながら上品な室内楽を奏ではじめ、その端正な音の流れに、いつしかしっくりと馴染んでいくといった読み心地に変化していくのだ。
こういった構成の場合、それぞれの物語を最後にはひとつのテーマに収束させるといった手を、大抵の作家は使うものだけれど、西崎さんはあえてそれを封印している。五つのミステリアスな物語を、謎は謎として残したまま、開いた形で読者に手渡すのだ。そのことによって、読者は目に見えて、手で触れることのできるこの現実世界の裏側に潜んでいるのかもしれない、たくさんの謎に満ちた世界、その存在を予感することができる。五つの異なるレベルの語りが見せてくれる不思議な光景。重層的な味わいに満ちたファンタスティックな一冊なのである。
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