書評

『被災鉄道 復興への道』(講談社)

  • 2017/07/09
被災鉄道 復興への道 / 芦原 伸
被災鉄道 復興への道
  • 著者:芦原 伸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(306ページ)
  • 発売日:2014-07-15
  • ISBN-10:406219029X
  • ISBN-13:978-4062190299
内容紹介:
あのとき、東北地方の太平洋湾岸には多数の列車が走っていた。「乗り鉄」界の第一人者が見続けた被災した鉄道と東北の復興への道。

「生活文化遺産」を投げ捨てていいのか

大学を出て、芦原伸はまず鉄道ジャーナル社に入社。その後、独立して旅の雑誌の編集のかたわら、紀行作家として活躍してきた。『へるん先生の汽車旅行』『さらばブルートレイン!』『鉄道ひとり旅』……。その著書からも、いかに鉄道に親しんできたかが見てとれる。

へるん先生の汽車旅行 / 芦原 伸
へるん先生の汽車旅行
  • 著者:芦原 伸
  • 出版社:集英社インターナショナル
  • 装丁:単行本(280ページ)
  • 発売日:2014-02-26
  • ISBN-10:4797672676
  • ISBN-13:978-4797672671
内容紹介:
小泉八雲は元祖バックパッカーだった。明治23年、一人の食い詰めたジャーナリストが、大陸横断鉄道でカナダを横断、横浜を経て松江までやってくる。八雲の人生を変えた鉄道旅を、紀行作家が辿る。


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さらばブルートレイン! 昭和鉄道紀行  / 芦原 伸
さらばブルートレイン! 昭和鉄道紀行
  • 著者:芦原 伸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(338ページ)
  • 発売日:2008-07-23
  • ISBN-10:4062692767
  • ISBN-13:978-4062692762

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鉄道ひとり旅 郷愁の昭和鉄道紀行  / 芦原 伸
鉄道ひとり旅 郷愁の昭和鉄道紀行
  • 著者:芦原 伸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(370ページ)
  • 発売日:2008-10-30
  • ISBN-10:4062692775
  • ISBN-13:978-4062692779
内容紹介:
鉄道の旅の懐かしい記憶と貴重な記録が一冊に!蒸気機関車C62の勇姿、廃線跡、名物路線、名物列車などの完全乗車記。

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その人がいまや荒寥(こうりょう)とした鉄路の跡を行かねばならない。駅舎は跡かたもなく、傾いた跨線橋(こせんきょう)だけが残されていた。流された列車が「く」の字に折れ曲がって田んぼに置き去りにされている。ある鉄橋は橋梁(きょうりょう)が流失して、線路だけが吊(つ)り橋のように垂れ下がっていた。

東日本大震災から三年と五カ月。さまざまな分野で、被災の経過と復興の進みぐあいを伝える記録が出されているが、これは被災した東北一円の鉄道をめぐっている。三年に及んで三部構成をとっていて、まずあの二○一一年三月十一日に当の路線で何が起きたかをつづっていった。年があけてからは復興の始まった路線を訪ね歩いた。三年目は路線ごとにことなっている復興事情を、新たな局面から追っていった。

大津波が押し寄せたとき、東北地方の太平洋沿岸を走行中の列車は三一本。乗客・乗務員の総数は推定で約一八〇〇人。駅の流失二四、線路の破壊七〇カ所、橋梁の崩落一一九カ所。にもかかわらず、乗客・乗務員の死者数はゼロ。荒寥とした被災跡を廻(まわ)りながら、芦原伸はこの奇跡的なゼロの数字を、お守りのように抱いていたにちがいない。

列車の乗客は無事脱出できたが、しかし、車両と駅にはまだ三人の乗務員が残っていた。車両や駅を守ることは、乗務員の義務である

乗客を降ろし、二人は車両の留置手配をした。ひとりは床下回りを見て、手歯止めによる転動防止を行い、ひとりはエンジン停止および車内の機器整備を行った

一つ一つ軍手の指先でさして、確認していった。この本が通常の記録と大きくちがうのは、「あのとき」にとった乗務員の言動が、目に見るようにして再現されていることだ。

輸送指令室の指示を仰いだあと、地元の元消防士なり乗客から助言を受けると、指令室の方針とは違う決定をした。ここにはくり返し、乗務員の判断が語られている。「――疑わしき時は最も安全と認められるみちを採らねばならない」。鉄道員がまさに「鉄道員」の名で小説なり映画になるのは、理由あってのことなのだ。被災鉄道がはからずも、日本の鉄道でつちかわれてきた人間像と行動様式を浮きぼりにした。芦原伸は感情をおさえて書いているが、ひときわうれしい瞬間だったのではなかろうか。

だからこそ復旧にあたって、悩ましい事態に直面する。被災地の鉄道の不通区間は、いまも六路線二四五・七キロに及んでいる。復旧記録にしばしばBRT(バス高速輸送システム)が出てくるが、代行バスではなく、専用道路にバスを走らせるシステムであって、それが復興のキメ手になりつつある。ルート設定が柔軟にできるし、運行コストも安上がりだ。

だが、とりわけ日本の鉄道の特色は、輸送の足だけにとどまらないことだ。鉄道の駅は多く地域のコミュニティの中核をになってきた。バス路線は図面上の任意の駅だが、鉄道はしっかり地域を結びつける。鉄道員の制服は長い歴史のなかで、終始その信頼性がゆるがなかった。世界的に鉄道が見直されている時代にあって、さしあたりの経費と効率の名のもとに、この貴重な「生活文化遺産」を投げ捨てていいものか。被災鉄道が、あらためて大切な問いを投げかけてくる。
被災鉄道 復興への道 / 芦原 伸
被災鉄道 復興への道
  • 著者:芦原 伸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(306ページ)
  • 発売日:2014-07-15
  • ISBN-10:406219029X
  • ISBN-13:978-4062190299
内容紹介:
あのとき、東北地方の太平洋湾岸には多数の列車が走っていた。「乗り鉄」界の第一人者が見続けた被災した鉄道と東北の復興への道。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2014年08月17日

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