書評

『津波、噴火……日本列島 地震の2000年史』(朝日新聞出版)

  • 2018/01/09
津波、噴火……日本列島 地震の2000年史 / 保立道久,平川 新,成田龍一
津波、噴火……日本列島 地震の2000年史
  • 著者:保立道久,平川 新,成田龍一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(208ページ)
  • 発売日:2013-02-20
  • ISBN:4023311707
内容紹介:
災害の歴史から何を学び、どう向き合うか。歴史学者ら17人が語る「過去に何が起きたのかこれから何が起こるのか」。

いま、災害が変えた社会の歴史に学ぶ

春の日差しのなか、古いお宮に残された津波の痕跡を調べに、南三陸を歩いた。瓦礫(がれき)のうえの空は青く、海も青かった。あれから2年。あのとき500以上の遺体を安置した白い箱のような建物=ベイサイドアリーナの前で、見知らぬ男性から名刺を差し出された。名刺の肩書は「大川小学校遺族」。小5のお子さんを津波で亡くした男性であった。かばんの中をみせてくれた。地震史の書物がぎっしり詰まっていた。震災後、地震史の出版が続いたが「あの男性に送ろう」と、私がまず思ったのが、本書である。歴史学を中心に民俗学・考古学・地震学・社会学・ジャーナリストまで17人の著者が、古代から現代にいたる地震の2000年史を語っている。地震災害史のおおよそを知るには、この本が一番良い。

文系の地震研究は理系の地震史にはない視点がある。理系は災害を「被害」ととらえるが、文系の歴史学はもっとトータルにとらえる。災害後、救済・復興がいかになされ、人々が生き抜くか、その「立ち直り」のさままでを分析対象とする。北原糸子氏の唱える「災害社会史」の視点である。災害を被害とみるのは人間の主観である。災害は事後短期的にみれば被害だが、中期的にみれば救済・復興であり、もっと長期的に考えれば「社会変化のきっかけ」とみることもできよう。歴史の教えるところ、災害で社会は必ず何かが変わるのである。さて、この震災で日本はどう変わるのか。

本書の読者は、教科書に出てくる歴史上の出来事の多くが、実は、地震のせいであったことに驚くであろう。例えば、奈良の大仏。大仏こそ日本国家が地震からの回復を意識して行った最初の事業だと、保立道久氏はいう。大仏建立の約10年前、大地震が起きて誉田山(こんだやま)古墳(応神天皇陵)が崩壊した。人々は聖武天皇が自害に追いやった長屋王のたたりだと恐れた。釈迦(しゃか)は地震を操れると華厳経にはある。聖武は千の釈迦を出現させて宇宙を導く盧遮那仏(るしゃなぶつ)の巨像を造ればよいと考えたのだろう。あれは地震封じの仏像だったのである。

現代日本の歴史教科書は自然のインパクトと歴史的事件の関連を教えないが、古代社会では天変地異への恐怖が人々を動かした。本書にはないが、京都だってあの場所にあるのは地震のせいかもしれない。794年に南海トラフが動いたとの学説がある。工事中の長岡京が放棄され、平安京に移転した可能性がある。祇園祭もそうだ。平成日本の地震パターンは貞観年間(859―877年)に酷似しているといわれる。まず播磨(兵庫県)で地震がおき、東北を大津波が襲った。人々は播磨から「牛頭天王(ごずてんのう)」を京都に移して祭った。これが祇園さんのはじまりである。土用丑(うし)の日があるように牛は大地の象徴。大地の神、スサノオと同一視されるこの荒ぶる神を祭って、人々は地震を封じようとした。大仏も平安京も祇園祭も、地震の話なくしてはその成立が語れないのである。

津波で子どもを亡くされた父親が「歴史が何より大切です」といったのを私は忘れられない。南三陸で遠藤未希さんが避難アナウンスを続けたあの3階建て防災庁舎。建っていた場所の地名は「塩入」。津波高潮の常襲地につけられる歴史地名だ。防災庁舎など建ててはいけない場所だった。「歴史を知っていれば……」私は悔しいと思った。M9のあの地震で日本列島の地下はゆがみ、貞観時代のように不安定になってしまった。本書のような知識が生きるために必要とされている。
津波、噴火……日本列島 地震の2000年史 / 保立道久,平川 新,成田龍一
津波、噴火……日本列島 地震の2000年史
  • 著者:保立道久,平川 新,成田龍一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(208ページ)
  • 発売日:2013-02-20
  • ISBN:4023311707
内容紹介:
災害の歴史から何を学び、どう向き合うか。歴史学者ら17人が語る「過去に何が起きたのかこれから何が起こるのか」。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2013年4月14

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