書評

『徳川海上権力論』(講談社)

  • 2024/12/03
徳川海上権力論 / 小川 雄
徳川海上権力論
  • 著者:小川 雄
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(324ページ)
  • 発売日:2024-09-12
  • ISBN-10:4065371414
  • ISBN-13:978-4065371411
内容紹介:
徳川将軍家において、軍船は重要な位置をしめていた。それは、戦国時代には村レベルの小勢力だった彼らをして「将軍」という最強の盟主たらしめたのが、騎馬軍団でも鉄砲隊でもなく、「水軍」… もっと読む
徳川将軍家において、軍船は重要な位置をしめていた。それは、戦国時代には村レベルの小勢力だった彼らをして「将軍」という最強の盟主たらしめたのが、騎馬軍団でも鉄砲隊でもなく、「水軍」だったからだ。海上軍事がもたらした徳川氏の成長の軌跡と中世的な列島の権力構造が近世のそれへと大転換する過程を、世界史的視点も交えてダイナミックかつ詳細に描き出す、唯一無二の戦国史研究!

目次
序章 徳川権力にとって海上軍事とは何か
第1章 戦国大名・徳川氏と東海地域の水軍
第2章 徳川氏による水軍編成の本格化
第3章 豊臣政権の下で変容する徳川氏権力と水軍
第4章 水軍が支えた徳川権力の全国政権化
第5章 徳川家康の対ヨーロッパ貿易―「扇の要」向井政綱・忠勝父子
第6章 西国統治と「鎖国」―拡張する海上軍事体制
第7章 「水都」にして「軍都」=江戸
終章 東西ユーラシアの海上軍事と徳川権力

幕府成立、維持の功績に軍船あり

戦国から徳川時代への歴史は、いびつな形で語られてきた。陸の合戦話ばかりで海戦の話はほとんどない。天下統一とは、天下人が全土に意志を押し付ける政治の成立をいう。これには、シーパワーつまり海上権力が欠かせない。遠くにまで戦力を多量迅速に送るには海軍力だ。

徳川政権の成立を語るには、海上軍事力の分析が欠かせなかったはずだが、研究が遅れていた。本書は海に着目して徳川幕府の成立と維持を語った稀有な本である。徳川家康の旧地は岡崎城だが、岡崎だけでは発展できない。外港の大浜が大事で岡崎と大浜をセットで握って成長した。縁組みも、知多半島の戸田氏や刈谷の水野氏といった海の豪族とした。浜松城を拠点とするに及び、浜名湖の船運を使い、本国岡崎との連絡線を保つが、今川氏や武田氏に比べ、水軍では後れをとっていた。

ところが武田氏が滅び駿河湾の武田の海賊衆を傘下に入れた。秀吉と対抗するなか伊勢湾や三河の海賊をも徳川家の水軍に編成。秀吉政権下に入り、関東に領地を移されると、三浦半島の三崎を水軍の根拠地とし、対岸の安房里見氏に対抗した。秀吉は朝鮮出兵を指示したから、家康の水軍はますます巨大化した。織田信長だけと思われがちな鉄板装甲船を、家康も組織的に建造している。家康は領国にいる重臣から装甲用の鉄板を「一万石につき一五〇枚」集めている。秀吉が死ぬと、家康は瀬戸内の海賊衆を真っ先につかみ、伊勢湾・三河湾・伊豆半島の水軍とともに、側近の小笠原正吉を通じて編成した。徳川将軍家の「御船手(ふなて)」が整い、向井・小浜・小笠原・間宮の四氏が船手頭(がしら)として徳川の「提督」となった。豊臣秀頼と大坂城で戦った時には、向井氏・小浜氏が徳川水軍を率いて戦い、大坂湾の海上封鎖に成功し、豊臣氏を滅ぼせた。

近世日本の軍船は、安宅船(あたけぶね)・関船・小早船・川船とあり、この順で大↓小となる。一六〇九年、家康は西国大名から五〇〇石(約七五トン)積超の船を接収。以後、軍船は五〇〇石積以下と制限した。そのせいで徳川時代は商船には千石船があるが諸大名の軍船は五〇〇石以下となった。家康はウィリアム・アダムス(三浦按針)にきき、洋式船を二度も建造させている。向井氏と按針を結び付け、家康は太平洋を渡る洋式帆船を入手していた。史料上、この船は「唐船」「御黒舟」として出てくる。一二〇トンとされる。江戸幕府はたんに幕末に黒船に見舞われたのでない。黒船は家康時代に自分たちで造っていたのだ。ただ徳川には弱点があった。大坂以西のほとんどを外様大名に与えたため、西国や長崎の支配が難しかった。そこで徳川は明石城・福山城・今治城・小倉城・中津城、さらに高松城と、瀬戸内海の海城に親藩松平氏や譜代大名を置き、姫路城・松山城と連携させて、西国大名を監視した。本書にはないが、大坂湾岸の岸和田城には五〇人以上という大量の甲賀忍者を配置。和歌山城には何百人もの忍者を置いている。徳川の西国支配は「点」でしかない。海でつないで「面」の外様大名を管理監視していた。

海の視点から、徳川政権を眺めると、新たな近世日本像がみえてくる。海もみねば歴史の真相はわからないのだ。
徳川海上権力論 / 小川 雄
徳川海上権力論
  • 著者:小川 雄
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(324ページ)
  • 発売日:2024-09-12
  • ISBN-10:4065371414
  • ISBN-13:978-4065371411
内容紹介:
徳川将軍家において、軍船は重要な位置をしめていた。それは、戦国時代には村レベルの小勢力だった彼らをして「将軍」という最強の盟主たらしめたのが、騎馬軍団でも鉄砲隊でもなく、「水軍」… もっと読む
徳川将軍家において、軍船は重要な位置をしめていた。それは、戦国時代には村レベルの小勢力だった彼らをして「将軍」という最強の盟主たらしめたのが、騎馬軍団でも鉄砲隊でもなく、「水軍」だったからだ。海上軍事がもたらした徳川氏の成長の軌跡と中世的な列島の権力構造が近世のそれへと大転換する過程を、世界史的視点も交えてダイナミックかつ詳細に描き出す、唯一無二の戦国史研究!

目次
序章 徳川権力にとって海上軍事とは何か
第1章 戦国大名・徳川氏と東海地域の水軍
第2章 徳川氏による水軍編成の本格化
第3章 豊臣政権の下で変容する徳川氏権力と水軍
第4章 水軍が支えた徳川権力の全国政権化
第5章 徳川家康の対ヨーロッパ貿易―「扇の要」向井政綱・忠勝父子
第6章 西国統治と「鎖国」―拡張する海上軍事体制
第7章 「水都」にして「軍都」=江戸
終章 東西ユーラシアの海上軍事と徳川権力

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年11月16日

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