書評

『カフカの父親』(白水社)

  • 2020/05/11
カフカの父親 / トンマーゾ・ランドルフィ
カフカの父親
  • 著者:トンマーゾ・ランドルフィ
  • 翻訳:米川 良夫,竹山 博英,和田 忠彦,柱本 元彦
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(276ページ)
  • 発売日:2018-11-06
  • ISBN-10:4560072205
  • ISBN-13:978-4560072202
内容紹介:
幻想と現実の奇妙なブレンド 文豪ゴーゴリの妻は空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった! グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」。カフカの死んだ父親が巨大な蜘蛛となって現れる「カフカの父親」。音の重さや固さ、色彩、味や匂いについての考察「『通俗歌唱法教本』より」。イギ… もっと読む
幻想と現実の奇妙なブレンド

文豪ゴーゴリの妻は空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった! グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」。カフカの死んだ父親が巨大な蜘蛛となって現れる「カフカの父親」。音の重さや固さ、色彩、味や匂いについての考察「『通俗歌唱法教本』より」。イギリス人の船長から一年間習ったペルシャ語は実際には世界中のどこにも存在しない言葉だった……「無限大体系対話」など、カルヴィーノ、ブッツァーティと並ぶイタリア文学の異才ランドルフィの途方もない奇想とナンセンス、特異な言語感覚に満ちた短篇を集成。奇怪な幻想、残酷な寓話から擬似科学的なパロディ、さらには日常的な題材、回想記まで、自在な語り口で物語を紡ぎだす孤高の天才の不思議な世界。奇妙な乗組をのせた船の超現実主義的な航海を描く「ゴキブリの海」を追加収録した決定版傑作集。
変身、といえばカフカか仮面ライダーの専売特許ということになっているんだけれど、無念なことに後者から連想できる爆笑思弁小説の傑作『沢蟹まけると意志の力』(佐藤哲也/新潮社)は今や入手困難。図書館で見かけたら即、手に取って下さいますように。ホントに面白いんだから! なので、今回はカフカつながりでトンマーゾ・ランドルフィの短篇集『カフカの父親』をどうぞ。

ランドルフィはその文名の高さにもかかわらず、これまで日本ではほとんど紹介されてこなかったイタリアの作家なんだけど、いざ読んでみるとそれもむべなるかな。作風がすごく特異で、しかも作品によっては哲学的といってもいいほど難解だったりもするから。でも、大丈夫。そういうわけのわからなさが奇妙な味に昇華しているので、わからない=つまらないというくびきからは見事に解き放たれているのだ。

たとえば、ランドルフィの作品の中でもとりわけ有名な一作「ゴーゴリの妻」。文豪ゴーゴリの妻が精巧な××××××だったというこの短い物語がかもす、奇天烈かつグロテスクかつ哀愁すら漂うユーモアはまさに絶品だ。また、「剣」がかもすクールな残虐性も忘れがたい。とんでもない切れ味の魔剣を手に入れた青年を慕う美少女。彼女が青年の前に身を投げ出した時――ああ、その凄絶なシーンのおぞましさ、美しさといったら! ランドルフィの文章の切れ味こそが魔剣のそれに違いない。感嘆の声を上げてしまうほど素晴らしい一篇なんである。

そして、表題にもなっている問題の作品はというと、カフカが父親の頭をつけた巨大な蜘蛛に悩まされるショートショート。評伝によれば、カフカを支えていたのは母や妹、婚約者といった女性性で、男性性のモデルであるべき父親はユダヤの怒れる神のごとく試練と抑圧だけを与える存在だったらしい。ランドルフィはその事実に着目。自分が毒虫に変身する物語を書いたカフカの、専制的だった父親に対する皮肉な意趣返しを思わせる物語をこしらえたのだ。奇抜なアイデアと端正な文章と鋭い知性から生まれた十五篇の不思議な世界。?と!の間を行ったり来たりの読書体験ができるはずだ。

【単行本】
カフカの父親 / トンマーゾ ランドルフィ
カフカの父親
  • 著者:トンマーゾ ランドルフィ
  • 翻訳:和田 忠彦,柱本 元彦
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:1996-05-01
  • ISBN-10:4336035911
  • ISBN-13:978-4336035912
内容紹介:
文豪ゴーゴリの愛妻は、吹き込まれた空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった。グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」。オペラ歌手の歌声の重さや固さ、色、はては匂いや味についての怪論文「『通俗歌唱法教本』より」。ある朝突然口から飛びだしてきた言葉たちが意味の配分をめぐって大論争を繰り広げる、ナンセンスな味わいの「騒ぎ立てる言葉たち」など、奇抜なアイデア、日常生活にぽっかり開いた裂けめを完璧なストーリーテリングで調理する、現代イアリア文学の奇才ランドルフィ、初の作品集。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。



【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

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カフカの父親 / トンマーゾ・ランドルフィ
カフカの父親
  • 著者:トンマーゾ・ランドルフィ
  • 翻訳:米川 良夫,竹山 博英,和田 忠彦,柱本 元彦
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(276ページ)
  • 発売日:2018-11-06
  • ISBN-10:4560072205
  • ISBN-13:978-4560072202
内容紹介:
幻想と現実の奇妙なブレンド 文豪ゴーゴリの妻は空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった! グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」。カフカの死んだ父親が巨大な蜘蛛となって現れる「カフカの父親」。音の重さや固さ、色彩、味や匂いについての考察「『通俗歌唱法教本』より」。イギ… もっと読む
幻想と現実の奇妙なブレンド

文豪ゴーゴリの妻は空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった! グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」。カフカの死んだ父親が巨大な蜘蛛となって現れる「カフカの父親」。音の重さや固さ、色彩、味や匂いについての考察「『通俗歌唱法教本』より」。イギリス人の船長から一年間習ったペルシャ語は実際には世界中のどこにも存在しない言葉だった……「無限大体系対話」など、カルヴィーノ、ブッツァーティと並ぶイタリア文学の異才ランドルフィの途方もない奇想とナンセンス、特異な言語感覚に満ちた短篇を集成。奇怪な幻想、残酷な寓話から擬似科学的なパロディ、さらには日常的な題材、回想記まで、自在な語り口で物語を紡ぎだす孤高の天才の不思議な世界。奇妙な乗組をのせた船の超現実主義的な航海を描く「ゴキブリの海」を追加収録した決定版傑作集。

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