書評
『アフリカ音楽の正体』(音楽之友社)
家に太鼓がほしくなる
ジャズやリズム&ブルース、ロックやラテンまで、現代のポップ・ミュージックのかなりの部分がアフリカ音楽の影響のもとに成り立っている、とはよく言われることだが、どういうところがそうと言えるのか、厳密に説明されることはあまりなかった。この本はまず第一に、大ざっぱに「アフリカ音楽」と呼べる特徴が本当にあるのかという大問題から始めて、確かにリズムの面であの大陸の大部分に共通するものがあるのだと示した上で(これは実に驚くべきことだ)、伝統的なアフリカ音楽の際立った特性と魅力を実に明晰に描き出してくれる。アフリカ音楽の研究史にもかなり詳しく触れることで、西洋的な知の体系の中でアフリカのリズムを説明することに多くの民族音楽学者が苦労してきたことも、その原因もまざまざとわかってくる。出版社のサイト上には著者が録音してきた参考音源が公開されているので、本書の中の言語的な説明と、楽譜に書き取ったグラフィックな説明の両方とつきあわせていくことで、アフリカの無名の打楽器奏者たちがやっている合奏の壮大な構築性が見えてくる。
僕の中では、他の本で読んでわかったようで具体的にはあまりよくわかっていなかった特徴―ポリリズムとか、長調と短調の交錯、二拍子と三拍子の重なりあいのメカニズムなど―が実にストンとわかってきた。それが本書の白眉たる最初の二章で、そこで冒頭の問いへの返答もされるのだが、ここでのリズムの説明の部分はあまりにも面白くて僕は電車を二駅も乗り過ごしてしまったほどだ。
さらに本書の後半は、読者をアフリカ的な打楽器演奏へと誘い出す。反復されるリズムが頭にこびりついて、チャキリワ、ン、チャキリワ、ンと、アフリカ的なリズム記憶法にのっとって呟きながら、腿を叩いたり空の食品容器を叩いたりしはじめる。家にひとつ太鼓がほしくなること請け合いの快作である。
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