書評

『神社の本殿―建築にみる神の空間』(吉川弘文館)

  • 2020/05/26
神社の本殿―建築にみる神の空間 / 三浦 正幸
神社の本殿―建築にみる神の空間
  • 著者:三浦 正幸
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2013-01-01
  • ISBN-10:4642057625
  • ISBN-13:978-4642057622
内容紹介:
神社本殿の内部はどうなっているのか、寺院本堂とはどう違うのか。知られざる神社建築の実態を、豊富な意匠の事例から、見取り図を駆使して読み解く。時代による変遷を辿りつつ、神社の見方がくまなく分かる、初めての書。

神社建築への疑問 明快に回答する書

神社の本殿とは何か、なぜさまざまな形式の神社建築があるのか、そもそも神社の社殿ができたのはいつの時代なのか。神社は私たちに身近な存在であり、日本の文化を象徴する存在でもありながら、実はよくわからない多くの疑問に包まれてゐる。そんな疑問に明快に答へてくれる本である。

著者は建築史と文化財学の専門家である。神道の研究者ではないだけに、あくまでもその専門の立場から学術的な分類と分析に徹底してをり、多くの読者を納得させる力がある。

まづ、神社の本殿とは何か、については「神の専有空間を内包する建築で、そこに神が常在するとされているもの」と定義して、神の去来や降臨のための御旅所や祭殿とは明確に区別する。神社建築の多様性と分類については、現在広く定説化されてゐる恩師・稲垣榮三博士の説を紹介した上で、それを批判し新たな分類案を提示する。

稲垣説は、「土台・心の御柱・二室」といふ概念で分類したもので、一、土台については、本殿の柱下に井桁に組んだ土台をもつ春日社や賀茂上下両社のタイプに注目。それは移動させやすい構造であり、本殿が、年に一度の神の降臨に際しての、神の宿舎といふ性格をもつからだと考へた。

二、心の御柱をもつ伊勢の神宮や出雲大社のタイプについては、心の御柱は構造的にはほとんど無用なもので神秘性を帯びたものとみる。いづれも本殿は堀立柱の古代の宮殿の手法で造られてをり、神が常在する宮殿として造られてゐるとした。三、本殿形式が二室に分かれてゐる点については、住吉大社や宇佐八幡宮のタイプに注目してゐるが、その起源や意味は互ひに異なるとしてゐる。

それに対して、三浦説では、一、土台については、規模の小さい春日社の土台は移動のためではなく細い柱の本殿の安定性確保のためであり、規模の大きい賀茂別雷神社の土台は遷宮に際して引き家工法で移動させるためであるといひ、神が本殿に常在するといふ点に疑ひの余地はないといふ。二、心の御柱については、出雲大社の心の御柱は巨大神殿を支へる機能を果たしてをり建築構造上とくに神秘性は認められないとし、それに対して神宮の心の御柱は建築構造とは完全に遊離してをり、両者を同列に考へるわけにはいかない、つまり神秘性を考へることができる、としてゐる。三、二室の構成については、住吉と八幡の二つのタイプに相違はないとし、いづれも古代の宮殿の間取りに倣ったもので常在する神の昼と夜の御座であるとする。

三浦説の分類案でとくに説得的なのは、出雲大社のやうな本殿の中に内殿があるタイプと伊勢の神宮のやうに内殿がないタイプとに注目して、前者を神主たち祭員の参入タイプ、後者を非参入タイプと分類してゐる点である。そして、参入タイプの本殿は古代の宮殿と類似して左右非対称の形式となり、非参入タイプの本殿は左右対称の形式となるのだが、左右対称といふ造形は仏教建築からの強い影響によって新たに創始されたものと言ふほかないと断言する。

賛否両論を引き起こすにちがひない著作であり、日本の文化と神祭りの歴史をさらに深く考へるためにもぜひ一読をおすすめしたい。

[書き手] 新谷 尚紀(しんたに たかのり)総合研究大学院大学・国立歴史民俗博物館名誉教授 1948年生まれ、『葬式は誰がするのか』『氏神さまと鎮守さま』『神道入門』など著書多数。
神社の本殿―建築にみる神の空間 / 三浦 正幸
神社の本殿―建築にみる神の空間
  • 著者:三浦 正幸
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2013-01-01
  • ISBN-10:4642057625
  • ISBN-13:978-4642057622
内容紹介:
神社本殿の内部はどうなっているのか、寺院本堂とはどう違うのか。知られざる神社建築の実態を、豊富な意匠の事例から、見取り図を駆使して読み解く。時代による変遷を辿りつつ、神社の見方がくまなく分かる、初めての書。

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初出メディア

神社新報

神社新報 2013年4月15日

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