読書日記

『黄金旅風』(小学館)

  • 2020/07/12
黄金旅風 / 飯嶋 和一
黄金旅風
  • 著者:飯嶋 和一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(604ページ)
  • 発売日:2008-02-06
  • ISBN-10:4094033157
  • ISBN-13:978-4094033151
内容紹介:
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平… もっと読む
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。
飯嶋和一は幻の直木賞作家なんである。ライト兄弟より一〇〇年以上先駆けて空を飛んでみせた男が主人公の、痛快時代小説『始祖鳥記』で獲っていなければおかしいというのが、心正しき文学賞ウォッチャーの間では常識になっているのだ。んが、受賞していない。なぜか? 授賞のタイミングを逸しがちな直木賞選考委員の非、と言いたいところだけど違います。実は作家本人が「直木賞の候補にしないでくれ」宣言を、かつてしてしまっているからなのだ。その理由は「作家は小説だけ書いていればいい」。飯嶋和一は自作に登場する男子のごとく気骨溢れる御仁なんである。

『黄金旅風』はその『始祖鳥記』以来、四年ぶりとなる書き下ろし新作。江戸時代初期、南蛮貿易でにぎわう長崎に二人の大馬鹿者が生まれる。長崎における港務権の一切を掌握し、ポルトガルやイスパニア人はもちろん、イギリスやオランダ人からも「カピタン(貿易司令官)平蔵」と呼ばれ恐れられる朱印船貿易家にして長崎代官・末次平蔵の放蕩息子、平左衛門。子供の頃から身の丈が自分の倍ほどもある南蛮人を片っ端から斬り倒して歩いていた悪童、平尾才介。この二人が、しかし、大変な傑物に成長するのだ。海運業だけでなく、平蔵の死後引き継いだ代官職を父以上に立派に務めあげる聡明な平左衛門。日本人、唐人、高麗人の区別なく接し、長崎に住む人々から絶大な信望を寄せられる火消し組の頭として活躍する才介。

大きな富をもたらす貿易の拠点として、様々な人物が私利私欲を肥やさんと長崎を食い物にする。そんな悪党どもの所業に苦しむ民を救うため、長崎を「誰もが、穏やかに、その日その日を生きて、家族や朋輩を愛し、隣人を尊んで、家柄やら生国やら、人種やら財やら、つまらぬことは一切こだわらず、ここに住み暮らす皆が助け合って居きられるようなそんな『約束の地』に」するため、知恵と勇気と俠気と慈愛をもって戦う二人の男の立ち回りを描いてドラマチック。読後、胸の中を清々しい風が吹き抜けていく。愚劣な政治家ばかりが幅をきかす現代においては、寓話としても機能するにちがいない、大変な傑作なんである。

【この読書日記が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

黄金旅風 / 飯嶋 和一
黄金旅風
  • 著者:飯嶋 和一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(604ページ)
  • 発売日:2008-02-06
  • ISBN-10:4094033157
  • ISBN-13:978-4094033151
内容紹介:
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平… もっと読む
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。

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初出メディア

婦人公論

婦人公論 2004年5月22日号

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