書評
『アメリカの越え方―和子・俊輔・良行の抵抗と越境』(弘文堂)
三人三様の道筋、立体的に対置
なぜ「アメリカを越える」ことが課題なのか? 東アジアにおいて戦前の日本の植民地主義が戦後、そっくりアメリカの覇権構造に引き継がれた点で、大日本帝国の崩壊と冷戦の激化のあいだには構造的な連続性があるからだ。終戦を迎えた日本と違い、アジアは日本の開国以前から戦後もずっと植民地支配、内戦、独裁といった“戦時”にあった。そういうねじれからアジアの未来を見通すことは、だから「アメリカを越える」ことと別でありえない。問題に切り込むために採ったのは、鶴見という親米エリート一族に生まれた和子・俊輔の姉弟、従兄弟(いとこ)の良行の、三人三様の生涯をかけた思考の道筋を対置するという立体的な手法だ。成長期をアメリカで過ごした彼らは、アメリカを深く内面化しているがゆえにそれと対峙(たいじ)することから戦後を生き始めたが、これはアメリカの傘の下、復興と成長をとげた国民の途の逆を行くものだった……。問題がじつにクリアに浮かび上がる。
朝日新聞 2012年12月9日
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