書評

『コーネルの箱』(文藝春秋)

  • 2022/02/24
コーネルの箱 / チャールズ シミック
コーネルの箱
  • 著者:チャールズ シミック
  • 翻訳:柴田 元幸
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(160ページ)
  • 発売日:2003-12-05
  • ISBN-10:4163224203
  • ISBN-13:978-4163224206
内容紹介:
ニューヨークの古本屋や小道具屋を漁って手に入れた小物を木箱に収めて誕生した小さな宇宙。バレリーナやプリンスを忍ばせたコーネルの秘密の小箱。不思議なアートに華麗な小文を加えた大人の絵本。『本の話』連載に大幅加筆。
金井美恵子の最新エッセイ集『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』を読んでいたら、映像作家ダニエル・シュミットの世界を、ジョゼフ・コーネルのオブジェ作品と重ね合わせて論じている箇所があり、その指摘の鋭さに感じ入ったちょうどその頃、この本が書店に並んだという偶然を指して、読書の愉悦のシンクロニシティと言い切っては牽強付会(けんきょうふかい)にすぎるだろうか。

コーネルといえば、古い雑誌や本、写真、版画といった、誰か他の人の手になるアイテムを自作の箱の中にコラージュした、シュルレアリスティックな手法の作品で知られるアーティスト。

本書は詩人のシミックが、「コーネルが物について行なったのと同じように、すでにある言葉のなかから断片を見つけてきて、それを素材に詩を作りたい」と思い立って書いた、それ自体がコーネルの箱のごとく謎めいていて、象徴的で、ロマンティックな書物なのである。コーネルの日記はいうまでもなく、数多くの詩人や画家たちの言葉を自身の詩のように美しい散文の中にコラージュしながらシミックは、「スケッチもできなかったし油絵も描けなかったし彫刻もできなかった」にもかかわらず、アメリカの偉大な芸術家になったコーネル作品の神髄と、その周辺を、静かにゆったりとたゆたう。性急な解釈や直截な断定とは無縁。親しき仲にも礼儀ありとでもいいたいかのような、シャイで端正なアプローチの仕方が心地よい一冊なのだ。代表的作品も二十四点収録されており、コーネルという不思議な才能の一端に触れることができるのも嬉しい。

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

コーネルの箱 / チャールズ シミック
コーネルの箱
  • 著者:チャールズ シミック
  • 翻訳:柴田 元幸
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(160ページ)
  • 発売日:2003-12-05
  • ISBN-10:4163224203
  • ISBN-13:978-4163224206
内容紹介:
ニューヨークの古本屋や小道具屋を漁って手に入れた小物を木箱に収めて誕生した小さな宇宙。バレリーナやプリンスを忍ばせたコーネルの秘密の小箱。不思議なアートに華麗な小文を加えた大人の絵本。『本の話』連載に大幅加筆。

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初出メディア

ダ・ヴィンチ

ダ・ヴィンチ 2004年3月号

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