書評
ジョン・クラカワー著、海津 正彦訳『空へ』(文藝春秋)、萩原 延壽『陸奥宗光 上・下』(朝日新聞社)、水原 冬美『パリの墓地』(新潮社)
書評委員が選んだ今年(1997年)の3点
(1)ジョン・クラカワー著、海津 正彦訳『空へ』(文藝春秋)
紀行をせっせと読んだ一年、ことにおもしろかった一冊。著者は難波康子さんが遭難した一九九六年五月、エベレスト登頂のロブ・ホール隊に雑誌特派員として参加、生還した。登山の営利化、イベント化、メディア化の実態がよくわかる息詰まるドキュメント。(2)萩原 延壽『陸奥宗光 上・下』(朝日新聞社)
『馬場辰猪』以来待っていた本。紀州の上士に生まれ、坂本龍馬の海援隊に加わり、新政府に出仕するも、立志社系の政府転覆計画に加担して下獄、さらに外交官として生きた「近代屈指のレアリスト」陸奥の起伏ある人生、「権力と理念にひきさかれた魂」を時代の中に彫り込む。(3)水原 冬美『パリの墓地』(新潮社)
パリにも掃苔(そうたい)家健在、と楽しく読んだ。ペール・ラシェーズ、モンパルナスなどの墓地に眠るバルザック、フーコー、サルトル。中には女美容師カリタや占師ルノルマン嬢も。簡潔でエスプリの利いたスケッチとなっている。ALL REVIEWSをフォローする






























