米原万里の早食(はやぐ)いは、通訳業界でも評判であった。ロシアの要人と日本のお偉方との間で通訳を行なう。そこへ食事が運ばれてくる。ウォトカや日本酒やご馳走の上をロシア語と日本語が飛びかう。もちろん彼女はそれを日本語に換えロシア語に訳し、たえずコトバを発していなければならない。ところがそれでいながら、だれよりも早く食べおえているのは彼女だった。
この本には、食べ物についてのエッセイが、みごとな構成のもとに集められているが、彼女の筆は遅かった。その理由は、徹底的に調査取材をするからで、それはたとえば「ウォトカをめぐる二つの謎」を読めばよくわかる。
【この解説が収録されている書籍】