書評
『世にも美しいダイエット カラダ革命の本』(講談社)
青菜主義の健康法
思わず「これは!」と唸ってしまうほど近来稀にみる過激な主張を、世にも美しい装丁の中に織りこんだ本の登場である。人はまずこのタイトル「カラダ革命」に目をひかれるに違いない。これはダイエットの本なのか、それとも自己鍛練の書なのか、いや栄養学なのか、医学なのか、はてさて宗教書なのか。いずれにもピタリとはあてはまらない。むしろそういう既成の分類を拒む手強さをもっている。ではいったい何なのか。詮じつめて言えば、著者は衣食住という人間の生活の基本をみつめ直す姿勢を示す。そして食を中心とする生活文化革命を提唱するのだ。著者の敬愛してやまないM先生の理論と実践とによりながら、著者自らが体験したこと、また他の実践者とのインタヴューやコメントを集大成した著者言うところのノンフィクションでもある。
まず次の食物に追放処分が課せられる。ご飯(米)に牛乳、ほうれん草にキャベツにタケノコ、砂糖などのあらゆる糖分、アルコール類に酢などなど。ほとんど何も食べられないじゃないのという読者の悲鳴が聞こえてきそうだ。
だがそれらに代えて次の食物をとることが推奨される。小松菜、レタス、チンゲン菜を主とする糖分のない青菜類、べに花油とバターを中心とする油脂類、たっぷりの水と塩分。要するに体内の血糖値をできるだけ下げ、でんぷんに代えて油脂でエネルギーをまかない、さらに自分に合った運動を毎日課す。これによって一回の食事量がへり、結果として成人病予防やダイエットにつながるというわけだ。
前著「世にも美しいダイエット」以来の著者の主張が不思議な説得力をもつのは、「カラダ革命」に挑む前の著者自身が、自ら告白しているように半端ではない美食家、健啖家だったからである。快楽主義の果ての禁欲主義か。しかし著者は決して快楽主義の精神を忘れない。だからこそ「青菜主義」に基づく実践メニューやレシピ作りに余念がないのだ。
すでに幾つかのレストランをまきこみつつある生活文化革命をめざすこの少数者の思想が(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)、飽食に慣れきった世紀末の日本にいかに根づくか、注意深く見守りたい。