書評

『やきもち焼きの土器つくり』(みすず書房)

  • 2017/07/13
やきもち焼きの土器つくり / クロード・レヴィ=ストロース
やきもち焼きの土器つくり
  • 著者:クロード・レヴィ=ストロース
  • 翻訳:渡辺 公三
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(350ページ)
  • ISBN-10:462204904X
  • ISBN-13:978-4622049043
内容紹介:
本書の主題は、料理の火が存在すればそれに必ずともなう土器つくりの火と、焼成される土器の起源である。この主題が三つの方向から探究される。第一に、南北アメリカの遙かに隔たった地の諸神… もっと読む
本書の主題は、料理の火が存在すればそれに必ずともなう土器つくりの火と、焼成される土器の起源である。この主題が三つの方向から探究される。第一に、南北アメリカの遙かに隔たった地の諸神話に見られる構造的・内容的類同性、第二にインディアン神話に見られる動物群の神話的意味、そして第三に象徴的思考をめぐる神話の構造分析とフロイトの精神分析の視点の違いである。自然から文化への移行の秘密を探り、読者の知的愉しみを満喫させる一冊。
神話論理のもつれた糸を解きほぐす手並みの鮮やかさ。そして思考のみずみずしさ。――レヴィ=ストロースが先年久びさに著した本格的な神話研究書の、待望の翻訳である。ページを繰りながら私は、ほんとうに堪能した(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1990年)。

構造主義人類学の頂点を極めた大冊、『神話論理』全四巻が書かれたのは、二十年ほど前のこと。料理の火の起源をめぐる南北アメリカの神話群を素材にした、前人未踏の業績だった。今回とりあげるのは、もうひとつの火の技術、土器作りの起源をめぐる神話群である。そしてそこから、ヨタカ/ホエザル/ナマケモノといった、神話の「動物素(ゾエーム)」たちがどういう意味場を織りなしているのかを明らかにしていく。

レヴィ=ストロースの神話学は、ただでさえ難解とされるうえ、『神話論理』の翻訳が未刊なため、全体像がつかみにくかった。だがうれしいことに、本書はたった一冊で、そのうまい要約になっている。特に神話分析の「基本定式」がどういうものなのか、実例が豊富でよくわかるのがいい。思うにこの定式は一種の比例式で、欠けた項をそれ以外の部分から予測するためのものである。彼はこの操作を、先験的演繹とよぶ。

夜行性で大きく口が裂けたヨタカと、滅多に糞をしないナマケモノ。ここに、口唇における欲望/肛門における保持、の対立が隠れている。この対立が、それ以外のさまざまな対立に展開し、神話群の全体が生み出されていることが明らかになる。これを追っていくだけでも大変スリリングだ。

神話分析は、フロイトの精神分析と似ているようで、根本的に異なるという。フロイトは、性欲という唯一のコードですべてを解読しようとした。一方レヴィ=ストロースは、複数のコードを同等に扱う。それらのコードが「諸項のあいだに関係をうち立てる」ところに、神話の意味作用が現れるという。翻訳も万全で、構造主義の魅力を余すところなくたたえた本書の登場を喜びたい。

【この書評が収録されている書籍】
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003 / 橋爪 大三郎
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003
  • 著者:橋爪 大三郎
  • 出版社:海鳥社
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • ISBN-10:4874155421
  • ISBN-13:978-4874155424
内容紹介:
1980年代、現代思想ブームの渦中に登場以来、国内外の動向・思潮を客観的に見据えた著作と発言で論壇をリードしてきた橋爪大三郎が、20年間にわたり執筆した書評を初めて集成。明快な思考で知られる著者による、書評の最良の教科書。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

やきもち焼きの土器つくり / クロード・レヴィ=ストロース
やきもち焼きの土器つくり
  • 著者:クロード・レヴィ=ストロース
  • 翻訳:渡辺 公三
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(350ページ)
  • ISBN-10:462204904X
  • ISBN-13:978-4622049043
内容紹介:
本書の主題は、料理の火が存在すればそれに必ずともなう土器つくりの火と、焼成される土器の起源である。この主題が三つの方向から探究される。第一に、南北アメリカの遙かに隔たった地の諸神… もっと読む
本書の主題は、料理の火が存在すればそれに必ずともなう土器つくりの火と、焼成される土器の起源である。この主題が三つの方向から探究される。第一に、南北アメリカの遙かに隔たった地の諸神話に見られる構造的・内容的類同性、第二にインディアン神話に見られる動物群の神話的意味、そして第三に象徴的思考をめぐる神話の構造分析とフロイトの精神分析の視点の違いである。自然から文化への移行の秘密を探り、読者の知的愉しみを満喫させる一冊。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 1990年12月9日

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