書評

『昨日までの世界(上)―文明の源流と人類の未来』(日本経済新聞出版社)

  • 2018/03/11
昨日までの世界―文明の源流と人類の未来 / ジャレド・ダイアモンド
昨日までの世界―文明の源流と人類の未来
  • 著者:ジャレド・ダイアモンド
  • 翻訳:倉骨 彰
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 装丁:ハードカバー(416ページ)
  • 発売日:2013-02-26
  • ISBN-10:4532168600
  • ISBN-13:978-4532168605
内容紹介:
現代の工業化社会=西洋社会と伝統的社会の違いを浮き彫りにし、そこから判明する叡知をどのようにわれわれの人生や生活に取り入れ、さらに社会全体に影響を与える政策に反映させるかについて解説。世界的大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者、ピュリツァー賞受賞者が人類の未来を予見する。

国家のない社会がいいわけじゃない

人類にとって文明とは何か。こんな大風呂敷を広げたようなノンフィクションって久しぶりだ。『昨日までの世界』は、『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』のジャレド・ダイアモンドの新著((事務局注:本書評執筆時期は2013年4月26日))。

「昨日」というのは、人間が国家や文字を持つ前の時代のこと。人類が進化してチンパンジーの祖先と別の道を歩むようになったのが600万年前。狩猟採集の生活をやめて定住する農耕社会になったのが1万1千年前だそうで、時間の長さでいうと「昨日」のほうが圧倒的に長い。ニューギニアの高地などに住む人びとの生活を参考に、ダイアモンドはあれこれ考察を重ねていく。

「昨日」の世界を「伝統的社会」、西洋化された世界を「国家社会」とダイアモンドは呼ぶ。そして、領土や戦争、子育て、高齢者の処遇、危険に対する警戒心、病気など、実にさまざまな観点から両者を比較検討していく。

こういう話は、ときとして「昔はよかった。人類は進歩と引き換えに何を失ったのだろう」などと現代文明批判(と原始礼賛)に終わりがちなのだが、本書はそう単純ではない。

たとえば高齢者の処遇。フィジー諸島で会った男は著者に、アメリカ社会は高齢者に冷たいと非難がましく言う。日本でも、昔は年寄りをもっと大事にしたのに、という声をよく聞く。しかし、伝統的社会がどこも高齢者に優しいとは限らない。高齢者が強大な権限を持つ社会もあるけれども、その一方で、高齢者が餓死したり遺棄されたり殺されたりする社会もあるのだ。そして、餓死させたり遺棄したり殺したりするのにも、それなりの理由というものがある。

国家のない社会が理想的かというと、個人的な喧嘩やグループ間の争いによる死者の多さを考えると、決してそうとはいえなさそう(まるでリバイアサン?)。

ベストは「昨日」と「今日」のいいとこ取り。著者もそう述べるのだけど、でも、できるかな。
昨日までの世界―文明の源流と人類の未来 / ジャレド・ダイアモンド
昨日までの世界―文明の源流と人類の未来
  • 著者:ジャレド・ダイアモンド
  • 翻訳:倉骨 彰
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 装丁:ハードカバー(416ページ)
  • 発売日:2013-02-26
  • ISBN-10:4532168600
  • ISBN-13:978-4532168605
内容紹介:
現代の工業化社会=西洋社会と伝統的社会の違いを浮き彫りにし、そこから判明する叡知をどのようにわれわれの人生や生活に取り入れ、さらに社会全体に影響を与える政策に反映させるかについて解説。世界的大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者、ピュリツァー賞受賞者が人類の未来を予見する。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2013年4月26日

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