書評

『魔女とキリスト教』(講談社)

  • 2021/11/17
魔女とキリスト教 / 上山 安敏
魔女とキリスト教
  • 著者:上山 安敏
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(404ページ)
  • 発売日:1998-01-09
  • ISBN-10:4061593110
  • ISBN-13:978-4061593114
内容紹介:
魔女とは何か?魔女の淵源は古代地中海世界の太母神信仰に遡る。それは恐怖と共に畏敬にみちた存在であった。時を経て太母神はゲルマンやケルト等の土着の神々と習合し、キリスト教との相克の過… もっと読む
魔女とは何か?魔女の淵源は古代地中海世界の太母神信仰に遡る。それは恐怖と共に畏敬にみちた存在であった。時を経て太母神はゲルマンやケルト等の土着の神々と習合し、キリスト教との相克の過程で「魔女」に仕立て上げられていく。そして中世の異端審問、凄惨な魔女狩り…。民族学、神話学、宗教学、精神分析学等々、広範な学問の成果に立脚し、魔女を通じて探った異色のヨーロッパ精神史。

近代社会成立の根拠を問う

ヨーロッパの歴史を暗黒に染めあげる異端審問と魔女狩りは、ユダヤ=キリスト教社会が生んだ双生児である、――それが本書を彩る第一テーマである。

つぎに、ヨーロッパの社会は骨のズイまで父権的な一神教に浸されていたわけではない。その深層にはオリエント的な異教と地中海縁辺の太母信仰が流れていた、――それが本書の背景をなしている第二テーマである。

深層の太母信仰と表層の一神教の葛藤、相克のなかから、異端排除の「差別」と魔女狩りの「いじめ」が発生したが、それははたしてキリスト教社会に固有の現象だったのか、それとも人類が負うべき宿命なのか。近代社会成立の根拠を問う厳しい歴史的な視線と人間の深層意識に探りを入れる鋭い洞察が、本書に味のある奥行きを与えている。

それにしても、そこに総動員されている魔女学、悪魔学にかんする文献の広がりはどうだろう。神話学と民族学、教会史と法制史、聖書学と医学史と、あげていけばきりもないが、その資料の山をかみくだいて右にあげた二つのテーマにしぼりこんでいく手並みはやはりただごとではない。魔女の二類型を南欧型と北欧型に整理するかと思うと、中世の女性像がマリアと魔女に二極分化していくプロセスを浮きあがらせる。十三世紀にはじまる異端審問が、十六―十七世紀にピークを迎える魔女迫害と内的連関を保ちつつ接続していく歴史の起伏を再現しているところは、一幅のパノラマをみるようだ。それに関連して、ヨーロッパでの最初のユダヤ人大虐殺が魔女迫害の発生のいきさつと時代的に重なっており、それが十字軍の遠征と深いかかわりがあったとする重要な指摘もある。

近年のフェミニズムが「旧約聖書」の読みかえを通して、アダムの最初の妻であったリリトの復権を企て、その女神の原像のなかから、迫害されてきた魔女を新しい形で蘇(よみがえ)らせようとしている動向も紹介されている。
魔女とキリスト教 / 上山 安敏
魔女とキリスト教
  • 著者:上山 安敏
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(404ページ)
  • 発売日:1998-01-09
  • ISBN-10:4061593110
  • ISBN-13:978-4061593114
内容紹介:
魔女とは何か?魔女の淵源は古代地中海世界の太母神信仰に遡る。それは恐怖と共に畏敬にみちた存在であった。時を経て太母神はゲルマンやケルト等の土着の神々と習合し、キリスト教との相克の過… もっと読む
魔女とは何か?魔女の淵源は古代地中海世界の太母神信仰に遡る。それは恐怖と共に畏敬にみちた存在であった。時を経て太母神はゲルマンやケルト等の土着の神々と習合し、キリスト教との相克の過程で「魔女」に仕立て上げられていく。そして中世の異端審問、凄惨な魔女狩り…。民族学、神話学、宗教学、精神分析学等々、広範な学問の成果に立脚し、魔女を通じて探った異色のヨーロッパ精神史。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1993年7月26日

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