書評

『リッチ&ライト』(みすず書房)

  • 2024/08/08
リッチ&ライト / フロランス・ドゥレ
リッチ&ライト
  • 著者:フロランス・ドゥレ
  • 翻訳:千葉 文夫
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2002-05-03
  • ISBN-10:4622048663
  • ISBN-13:978-4622048664
内容紹介:
リュシーは三十代最後の夏の休暇をスペインで過ごすことに決めた。マラガ、エステポナ、セビーリャなどアンダルシア地方の暑い夏。ひとりで始めた旅だったのに、思いがけない過去との出会い、そして新しい発見が彼女を襲う。言葉の奔流のなかで、異性愛、同性愛、近親相姦的な愛のからみあうさまが立ち上がってくる。そうなれば死者たちも黙っていない…。フェミナ賞受賞。
語り手は、三十代最後の夏の休暇をスペインで過ごすことに決めたリュシー。マラガ、エステポナ、セビーリャなどのアンダルシア地方を回り、その後、妹の住むマドリッド経由で、知人の結婚式に参列するため地中海の小島に立ち寄り、パリのアパルトマンに帰るという、思わず「女性誌の特集かっ」とツッコミを入れたくなるほどリッチなバカンスなのだ。一人旅からスタートした彼女は、旅先で懐かしい人と再会したり、新しい出会いを経験する。そんな日々の中から立ち上がってくる過去の出来事、死者の思い出、今ここにいない人への想いが、主にお喋りによって綴られているのが、この小説の特徴だ。

登場人物やエピソードの説明を極力はぶいている上に、とぎれとぎれにしか提示してくれないので、人物相関図や出来事の時系列がなかなか把握できず、正直いって最初のうちは読むのに苦労する。でも、そもそもお喋りとはそういうものだろう。そこにいない誰か(ここでいえば読者のこと)のために、わざわざ説明なんか加えないし、話題は勢いにまかせてあちこちへと飛びがち。関係者の言い分の食い違いから事の真相がぼやけていき――そんなお喋りの特性を活かすことで、やがて物語はミステリアスな雰囲気をまとい始める。そう、これは、気がつくといつもリュシーの想念の中心に舞い戻ってくる、恐ろしくセクシーな男「インディオ」をめぐる“藪の中”的物語なのだ。

異性愛、同性愛、近親相姦愛、不倫愛。インディオという太陽の周りをめぐる大勢の男女の愛の輪舞を、巧緻な語り口で描いたのはフロランス・ドゥレ。本国フランスでは高い評価を受けているそうだが、日本では初紹介に近い作家だ。これを機に他作品の翻訳も!

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

リッチ&ライト / フロランス・ドゥレ
リッチ&ライト
  • 著者:フロランス・ドゥレ
  • 翻訳:千葉 文夫
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2002-05-03
  • ISBN-10:4622048663
  • ISBN-13:978-4622048664
内容紹介:
リュシーは三十代最後の夏の休暇をスペインで過ごすことに決めた。マラガ、エステポナ、セビーリャなどアンダルシア地方の暑い夏。ひとりで始めた旅だったのに、思いがけない過去との出会い、そして新しい発見が彼女を襲う。言葉の奔流のなかで、異性愛、同性愛、近親相姦的な愛のからみあうさまが立ち上がってくる。そうなれば死者たちも黙っていない…。フェミナ賞受賞。

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初出メディア

婦人公論

婦人公論 2002年9月7日号

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