書評
『リッチ&ライト』(みすず書房)
語り手は、三十代最後の夏の休暇をスペインで過ごすことに決めたリュシー。マラガ、エステポナ、セビーリャなどのアンダルシア地方を回り、その後、妹の住むマドリッド経由で、知人の結婚式に参列するため地中海の小島に立ち寄り、パリのアパルトマンに帰るという、思わず「女性誌の特集かっ」とツッコミを入れたくなるほどリッチなバカンスなのだ。一人旅からスタートした彼女は、旅先で懐かしい人と再会したり、新しい出会いを経験する。そんな日々の中から立ち上がってくる過去の出来事、死者の思い出、今ここにいない人への想いが、主にお喋りによって綴られているのが、この小説の特徴だ。
登場人物やエピソードの説明を極力はぶいている上に、とぎれとぎれにしか提示してくれないので、人物相関図や出来事の時系列がなかなか把握できず、正直いって最初のうちは読むのに苦労する。でも、そもそもお喋りとはそういうものだろう。そこにいない誰か(ここでいえば読者のこと)のために、わざわざ説明なんか加えないし、話題は勢いにまかせてあちこちへと飛びがち。関係者の言い分の食い違いから事の真相がぼやけていき――そんなお喋りの特性を活かすことで、やがて物語はミステリアスな雰囲気をまとい始める。そう、これは、気がつくといつもリュシーの想念の中心に舞い戻ってくる、恐ろしくセクシーな男「インディオ」をめぐる“藪の中”的物語なのだ。
異性愛、同性愛、近親相姦愛、不倫愛。インディオという太陽の周りをめぐる大勢の男女の愛の輪舞を、巧緻な語り口で描いたのはフロランス・ドゥレ。本国フランスでは高い評価を受けているそうだが、日本では初紹介に近い作家だ。これを機に他作品の翻訳も!
【この書評が収録されている書籍】
登場人物やエピソードの説明を極力はぶいている上に、とぎれとぎれにしか提示してくれないので、人物相関図や出来事の時系列がなかなか把握できず、正直いって最初のうちは読むのに苦労する。でも、そもそもお喋りとはそういうものだろう。そこにいない誰か(ここでいえば読者のこと)のために、わざわざ説明なんか加えないし、話題は勢いにまかせてあちこちへと飛びがち。関係者の言い分の食い違いから事の真相がぼやけていき――そんなお喋りの特性を活かすことで、やがて物語はミステリアスな雰囲気をまとい始める。そう、これは、気がつくといつもリュシーの想念の中心に舞い戻ってくる、恐ろしくセクシーな男「インディオ」をめぐる“藪の中”的物語なのだ。
異性愛、同性愛、近親相姦愛、不倫愛。インディオという太陽の周りをめぐる大勢の男女の愛の輪舞を、巧緻な語り口で描いたのはフロランス・ドゥレ。本国フランスでは高い評価を受けているそうだが、日本では初紹介に近い作家だ。これを機に他作品の翻訳も!
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