前書き
『図説 異形の生態:幻想動物組成百科』(原書房)
ユニコーン、ドラゴン、セイレーン、バジリスク……神話や伝説に登場する異形たち。
子供の頃に読んだ絵本や物語。大人になってから観た映画の一場面。私たちはその強烈な姿に驚き、強烈に魅了される。
でも――幻想動物の体のなかはどうなっているのだろう? どんな仕組みになっているのだろう? フランスの生物学者と画家がそんな疑問に大真面目に取り組んだ。
『図説 異形の生態:幻想動物組成百科』は、伝説の動物たちの体内構造や組成までを、フルカラーで紹介する世紀の奇書。ルイ・アルベール・ド・ブロイによる序文(一部)を公開する。

カエルの変態や卵の孵化に夢中になりながら、心のなかの広大な草原を走りまわるのだ。
子どもたちは、単にキジ目や無脊椎動物の解剖学的な説明を読むだけではなく、生物の進化の過程や見事なイラストのなかに隠された謎や暗号を解き明かしていく。
僕らはあらゆる感覚を総動員して、自分だけの物語へと誘われ、想像の世界を船で漕ぎ進む。頭のなかにある空想は、誰にも盗むことはできない。
僕らは空想の世界では大人になれた。
誰よりも大物で、立派で、勇敢。オデュッセウスやマルコ・ポーロ、ジュール・ヴェルヌ、エドガー・アラン・ポーよりも優れた人物にもなれたのだ。
そして、新たな冒険を求めてあらゆる生物に向き合い、知られざる海を漕ぎ進みながら、未知の生物との出会いを夢見る。ジャッカロープ、ユニコーン、ドラゴン……。
僕らは大人の言うことを聞く従順な子どもたちよりずっと勇ましかった。そして、アンフィスバエナ、恐ろしいリビアの蛇、マンティコア、ハルピュイアと戦うために旅に出る。
たとえクラーケンやケートス、巨大ガニから危うく逃れてきたとしても恥ずかしいとは思わない。教室にいる敵から冷やかされても、もう顔を真っ赤にはしない。
なぜなら僕らは、神話や伝説を読み、先人たちから知恵を授かり、凶暴な怪物に襲われたときの治療法を知っているのだから。空想の世界を支配する不死鳥フェニックスを追う冒険者にだってなれるのだから。
僕らがどんなセイレーンに誘惑され、どんなイエティを手なずけることになるのかはわからない。
犬の頭をしたキュノケファロスの言葉を理解し、雄牛と雌馬の子ジュマールに乗り、ヒュドラを従え、家畜小屋で竜のようなタラスクと角の生えたウサギを育てる。
セールやグリフォンを連れて自分だけの「驚異の部屋」を彩るような新たな発見を求めて旅立つ。
その部屋のことは、臆病者や普通の人たちには教えない。
ユニコーンやネス湖の怪獣ぐらいしか知らず、それ以外には日常を離れて好奇心をくすぐられ、恐怖で凍りつくようなことがない人たちには内緒なのだ。
僕らは偉大な伝説を語り継ぎ、胸おどる冒険にみんなを導く案内人にならなければならない。
いつの日か超自然史学の図鑑をつくれるように!
本書のイラストを描いてくれた非凡なる友人、カミーユ・ランヴェルサッド。学術的で詩情豊かな文章を添えてくれた、ジャン=バティスト・ド・パナフィユー。ふたりのすばらしい業績に大いなる感謝を捧げたい。
[書き手]ルイ・アルベール・ド・ブロイ(デロール代表)
本書の著者はジャン=バティスト・ド・パナフィユー。1955年生まれ。パリ第6大学出身。自然科学の教授資格と海洋生物学の博士号を持つ。ガリマール・ジュネス、ミラン、ナタンの各出版社より、科学の解説書を多数発表している。近年は大学を離れ、ドキュメンタリー・フィルムの監督および脚本家としても活躍している。邦訳に『骨から見る生物の進化』(共著)がある。挿画を担当するのはカミーユ・ランヴェルサッド。2006年、リヨンの美術学校エコール・エミール・コール卒業。幻獣研究家、怪物デッサン画家。異国や失われた世界への探求をつづける。共著に『ドラゴンと怪獣[Dragons et Chimeres]』、『空想の植物標本[Herbier Fantastique]』などがある。翻訳は星加久実。
子供の頃に読んだ絵本や物語。大人になってから観た映画の一場面。私たちはその強烈な姿に驚き、強烈に魅了される。
でも――幻想動物の体のなかはどうなっているのだろう? どんな仕組みになっているのだろう? フランスの生物学者と画家がそんな疑問に大真面目に取り組んだ。
『図説 異形の生態:幻想動物組成百科』は、伝説の動物たちの体内構造や組成までを、フルカラーで紹介する世紀の奇書。ルイ・アルベール・ド・ブロイによる序文(一部)を公開する。

異形の生物を解剖する
図鑑を眺めている子どもたちの精神は、詩人プレヴェールが言うように、自由を手にして奔放に駆けまわる。カエルの変態や卵の孵化に夢中になりながら、心のなかの広大な草原を走りまわるのだ。
子どもたちは、単にキジ目や無脊椎動物の解剖学的な説明を読むだけではなく、生物の進化の過程や見事なイラストのなかに隠された謎や暗号を解き明かしていく。
僕らはあらゆる感覚を総動員して、自分だけの物語へと誘われ、想像の世界を船で漕ぎ進む。頭のなかにある空想は、誰にも盗むことはできない。
僕らは空想の世界では大人になれた。
誰よりも大物で、立派で、勇敢。オデュッセウスやマルコ・ポーロ、ジュール・ヴェルヌ、エドガー・アラン・ポーよりも優れた人物にもなれたのだ。
そして、新たな冒険を求めてあらゆる生物に向き合い、知られざる海を漕ぎ進みながら、未知の生物との出会いを夢見る。ジャッカロープ、ユニコーン、ドラゴン……。
僕らは大人の言うことを聞く従順な子どもたちよりずっと勇ましかった。そして、アンフィスバエナ、恐ろしいリビアの蛇、マンティコア、ハルピュイアと戦うために旅に出る。
たとえクラーケンやケートス、巨大ガニから危うく逃れてきたとしても恥ずかしいとは思わない。教室にいる敵から冷やかされても、もう顔を真っ赤にはしない。
なぜなら僕らは、神話や伝説を読み、先人たちから知恵を授かり、凶暴な怪物に襲われたときの治療法を知っているのだから。空想の世界を支配する不死鳥フェニックスを追う冒険者にだってなれるのだから。
僕らがどんなセイレーンに誘惑され、どんなイエティを手なずけることになるのかはわからない。
犬の頭をしたキュノケファロスの言葉を理解し、雄牛と雌馬の子ジュマールに乗り、ヒュドラを従え、家畜小屋で竜のようなタラスクと角の生えたウサギを育てる。
セールやグリフォンを連れて自分だけの「驚異の部屋」を彩るような新たな発見を求めて旅立つ。
その部屋のことは、臆病者や普通の人たちには教えない。
ユニコーンやネス湖の怪獣ぐらいしか知らず、それ以外には日常を離れて好奇心をくすぐられ、恐怖で凍りつくようなことがない人たちには内緒なのだ。
僕らは偉大な伝説を語り継ぎ、胸おどる冒険にみんなを導く案内人にならなければならない。
いつの日か超自然史学の図鑑をつくれるように!
本書のイラストを描いてくれた非凡なる友人、カミーユ・ランヴェルサッド。学術的で詩情豊かな文章を添えてくれた、ジャン=バティスト・ド・パナフィユー。ふたりのすばらしい業績に大いなる感謝を捧げたい。
[書き手]ルイ・アルベール・ド・ブロイ(デロール代表)
本書の著者はジャン=バティスト・ド・パナフィユー。1955年生まれ。パリ第6大学出身。自然科学の教授資格と海洋生物学の博士号を持つ。ガリマール・ジュネス、ミラン、ナタンの各出版社より、科学の解説書を多数発表している。近年は大学を離れ、ドキュメンタリー・フィルムの監督および脚本家としても活躍している。邦訳に『骨から見る生物の進化』(共著)がある。挿画を担当するのはカミーユ・ランヴェルサッド。2006年、リヨンの美術学校エコール・エミール・コール卒業。幻獣研究家、怪物デッサン画家。異国や失われた世界への探求をつづける。共著に『ドラゴンと怪獣[Dragons et Chimeres]』、『空想の植物標本[Herbier Fantastique]』などがある。翻訳は星加久実。
ALL REVIEWSをフォローする