書評
『鳥獣戯語―いまは昔むかしは今』(福音館書店)
見事な構成、昔話の世界解読
思いっきり手間ひまかけた、ぜいたくこの上ない本づくりの試みである。司令塔には歴史と国文と美術のただならぬエキスパートがいて、四方八方に目をくばり、海外にまでアンテナをはりめぐらしている。素材の収集・整理は申すに及ばず、図版・写真の選択、そして華麗なデザイン化の任にあたるのが編集部を中心とする練達の目きき腕ききで、神出鬼没のゲリラ戦を展開する。書名は、風流な絵法師、鳥羽僧正筆とされる「鳥獣戯画」を下敷きにしたものだが、要するに人間さまと動物さまの交渉やだましあい、戦いやむつみあいのあとを、歴史をさかのぼり地域を横断して再現し、現代というまな板の上で自在に料理しようという魂胆だ。あっと驚く発見があり、鋭い推理がとびだして、目からうろこが落ちる思いをするのも一、二にとどまらない。
本書は「いまは昔むかしは今」というシリーズの第三巻にあたり、研究会が発足してからすでに十年の歳月がたっているという。そのテーマはご覧の通り現代版「今昔物語」をねらったものだが、民俗社会に伝えられた昔話が日本人の想像力をいかに培い、その精神的張力をどのように鍛えていったのか、その劇的な筋道が立体的に構成されていく。
十二支動物をめぐるお話が「十二類絵巻」などの解読を通して明らかにされ、神のお使いとしてのけものの生態、狩りの現場におけるたたかい、鳥獣的な野性と人間との交感、といった話題がつぎからつぎへと登場してくる。
たとえば「金太郎の謎」なる章では、怪童・金時にまつわる絵図が最大限集められ、そのお話の原型が子どもにもわかる言葉で再生され、謡曲や浄瑠璃の古典は申すに及ばず、関連の文献を勢ぞろいさせて克明な注釈に及ぶ。その上歌麿や蘆雪の絵もそえて遊び心も忘れない。
子どもが手にとって楽しめ、教師が読んで知的慰安に誘われることうけあいで、この春休み好個の読み物として推奨する。お値段がチト高いのが難といえば難だが、なに、それをはるかに上回る内容だ。
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