対外関係に着目、充実した通史
意外なことに、きちんとした日本史の概説書は少ない。学習参考書や新書などで書かれたものは数多くあっても、丁寧に原始社会から現代までを一冊に記した概説書はきわめて少ないのである。なぜだろうか。通史への関心の低さや、叙述の味気なさが災いして、また専門研究に特化しがちなために、書くほうにも意気込みが足りなかったことが考えられる。
そのためこの世界各国史のシリーズ全二十八巻の第一巻にもかかわらず、発刊は遅れて第二十五回配本とどん尻に近い。
いつ出来るのかなと思っていたところ、ようやく登場したのであった。このことは通史への関心が再び浮上しつつあることも影響していようか。あるいは歴史学の存在が問われていることも影響していようか。
それはさておき、本書の特徴は、国家史を基本においている点である。
考古学の成果に基づくヤマト政権の形成とそれに続く律令国家の形成と展開、中世における権力の分立を経て、統一政権としての幕藩制国家の形成、さらに近代の天皇制国家の形成から大日本帝国へという動きが、国家史に沿って記述されている。
世界各国史の一部であるから、国家史に基づくのは当然であろう。しかも国家史を書くにふさわしい研究者が配置されて分担執筆しており、まことに重厚感と安定感のある叙述となっている。
ただ現代史になると、国家のあり方の規定がなされておらず、「敗戦から経済大国へ」となっている。まだ歴史学で概念化されていないためであろうか。
また最近の傾向を反映して、対外関係が重視され、時代の転換における対外的契機がよく書き込まれているのも特徴である。
隋唐帝国の影響の下で形成された律令国家はもちろん、幕藩制国家においてもヨーロッパ勢力の進出との関係から、また天皇制国家にあってもアヘン戦争から説き起こすといった具合である。
わずかに中世の成立期についてのみ、対外的契機への言及がないが、果たしてその契機はなかったのであろうか。触れてほしかったところである。もちろんその後のモンゴル襲来や日明関係についてはよく目配りされていて、書き込まれているのだが。
こうした通史叙述でもっとも面倒な問題は、分担執筆のために時代の転換期がよく描ききれないことにあるが、それへの配慮もよくなされている。
もう一つの面倒な問題は文化史の記述であって、どうしても付けたりのような感じになってしまうことである。
しかし中世や近世の記事はほどほどに触れていて違和感はない。ただ近代や現代は専門分化が激しくて手におえないこともあって、ここはやや弱いように見受けられる。
さらにまた全体的にもう少し遊びの部分があってもよかったかもしれない。十一章とそれに続く終章まで、間断なく記述されており、読み通すのにいささか疲れてしまった。
最後の現代史になると、「経済発展は日本社会を変貌(へんぼう)させた。弥生時代以来最大の変容である」と評されたような高度成長の段階を経て、時代が急変していることも関係している。
このようにやや問題はあるにしても、日本の歴史の流れが五五〇ページほどの本に凝縮されて語られており、充実した内容の本になっていることは、高く評価できよう。