書評
『私は自分のパイを求めるだけであって人類を救いにきたわけじゃない』(祥伝社)
男性優位社会の中でパイを取り戻すために
「何よりフェミニズムは平和主義でもなければ、モラルのための闘争でもない。男たちに奪われてきた女の分のパイを取り戻すための闘争なのだ」とある。とにかく具体的。こういう考えもあるので聞いてください、ではない。パイ(取り分)を取り戻すための言葉だ。広告業界で、男性優位社会に翻弄されていた著者は、フェミニズムと広告を掛け合わせた「フェムバタイジング」を提唱し始める。
「キャリア断絶への脅威は、獲物を狙うハイエナのごとくいつも女性の周りにある」。
男性には自動的に用意される階段なのに、女性がその前に立つためにはいくつもの条件と努力が要求される。その後で一度でもつまずけば、やはり男性とは対等には扱えない、と烙印を押される。烙印を押すのは、あらかじめ階段が用意されていた人たちだ。
この4月、「女性の党」の党首としてソウル市長選に立候補し、4位に入った著者。
「『牽制を受けない権力は腐敗する』という言葉は、男性たちの連帯に対してもあてはまる」と言う。そう、男性は牽制を受けずにこの社会で生きてこられた。男性向けに設計された社会では、成功しようが失敗しようが、救ってくれる場所や仕組みがある。
この日本社会でも、家父長制の権化のような権力者によって諸問題が潰されている。
パイの占有を崩したい。
週刊金曜日 2021年7月16日
わたしたちにとって大事なことが報じられていないのではないか? そんな思いをもとに『週刊金曜日』は1993年に創刊されました。商業メディアに大きな影響を与えている広告収入に依存せず、定期購読が支えられている総合雑誌です。創刊当時から原発問題に斬り込むなど、大切な問題を伝えつづけています。(編集委員:雨宮処凛/石坂啓/宇都宮健児/落合恵子/佐高信/田中優子/中島岳志/本多勝一)
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