カズオ・イシグロの『クララとお日さま』など、AIを取り入れ、ポストヒューマニズムとその意義を考える小説が続いて発表されている。それらのAIロボットが洗練を極めて人間を追い越そうとするなか、本書はある意味、時代に逆行する型破りな人造人間を登場させた傑作である。
昨年はブッカー国際賞候補作の半分がたが「語り直し」作品だったが、本作もイギリス古典の本歌取りだ。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(一八一八年)に端を発する人造人間だが、本作は約二百年後の二〇〇五年、多国籍軍の侵攻とその後のイラクを舞台にしている。
ある古物商が爆弾テロで吹き飛んだ遺骸のかけらを寄せ集めて一個の人体を造りあげる。この体に、一人の警備員が入りこんでしまい……。中東のセクト主義と地政学的なドタバタとバイオレンスとホラー風味の混交がすさまじい。作品の下絵として、ポーの分身小説『ウィリアム・ウィルソン』とワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』も使われているのでは。英米の大古典をエイヤッと背負い投げる不条理ファンタジー。