書評

『アメリカを作った思想 ――五〇〇年の歴史』(筑摩書房)

  • 2021/09/29
アメリカを作った思想 ――五〇〇年の歴史 / ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン
アメリカを作った思想 ――五〇〇年の歴史
  • 著者:ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン
  • 翻訳:入江 哲朗
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(384ページ)
  • 発売日:2021-07-12
  • ISBN-10:4480510648
  • ISBN-13:978-4480510648
内容紹介:
「新世界」に投影された諸観念が合衆国を作り、社会に根づき、そして数多の運動を生んでゆく――。アメリカ思想の五〇〇年間を通観する新しい歴史。===発端において、アメリカは、ヨーロッパ… もっと読む
「新世界」に投影された諸観念が合衆国を作り、社会に根づき、そして数多の運動を生んでゆく――。アメリカ思想の五〇〇年間を通観する新しい歴史。

===
発端において、アメリカは、ヨーロッパの探検者たちが「新世界」に投影した一群の諸観念であった。それらはいかにして合衆国を築き、どのような運動を生み出していったか――。本書は、アメリカ人たちが紡いできた思想的生の物語を、国や時間や文化の境界を越える横断の歴史として描く。思想史とは、時代の問題と向きあった人びとの行為選択から彼らの知的背景を読みとること、そして彼らが生きた経験へ近づくことである。ピューリタニズムからポストモダニズムまで、あるいはトマス・ジェファソンからリチャード・ローティまで、アメリカ史に作用した観念の力を概説する画期的思想史入門。
===

【目次】
日本語版への序文

序文
第1章諸帝国の世界――コンタクト以前から一七四〇年まで
第2章アメリカと環大西洋啓蒙―― 一七四一年から一八〇〇年まで
第3章リパブリカンからロマンティックへ―― 一八〇〇年から一八五〇年まで
第4章思想的権威をめぐる諸抗争―― 一八五〇年から一八九〇年まで
第5章モダニズムの諸反乱―― 一八九〇年から一九二〇年まで
第6章ルーツと根なし草―― 一九二〇年から一九四五年まで
第7章アメリカ精神の開始―― 一九四五年から一九七〇年まで
第8章普遍主義に抗して―― 一九六二年から一九九〇年代まで
エピローグ グローバリゼーションの時代のアメリカ再考、あるいは会話の継続

謝辞
訳者あとがき
原註
さらに学ぶためのブックリスト
索引

「唯一の国」創成した≪想い≫の連鎖

新大陸を「アメリカ」と表記する地図が出た五○○年前から現在まで、この地で語られたさまざまなアイデアを通覧する。アメリカ思想史のコンパクトな意欲作だ。

植民地の住民は最初、自分たちがアメリカだと意識しなかった。それが歴史に鍛えられ、独立戦争を戦うネイション(国民)に成長する。世界で唯一のユニークな国、アメリカ合衆国の登場である。

著者は若手の歴史学者。政治家や思想家、宗教者、市井の人びとが残した文書から、その時代の課題や矛盾を丹念に立体的に再現する。文章は流麗で、黒人や女性にもしっかり目配り、さすが新世代の教科書は行き届いている。

全体は時代順に8章からなる。通読すると、人びとの考えが深まり、屈折し、分裂するさまが追える。切れ目は戦争だ。フレンチ・インディアン戦争、独立戦争、南北戦争、米墨戦争、二度の世界大戦、ベトナム戦争、…。でもつながっていてうらやましい。日本の場合は幕末、敗戦で二度折れていて、連続性の確認が大変だ。

もうひとつは国際的な拡がり。イギリス、ドイツ、フランスの思想界から影響を受け、またアメリカの思想が受け入れられて行く。この関係を著者は《環大西洋「文芸共和国」》とよぶ。輸入するだけの日本の知識界と対照的だ。

こんなアメリカ思想史に登場するのは三○○名以上。大事な主張と著作名をあげるだけでも精一杯だ。聖書を先住民の言語(アルゴンキン語)に翻訳した牧師ジョン・エリオット。《神の…憤怒は…燃えさかっています》と、説教で人びとを震え上がらせたジョナサン・エドワーズ。定番の人物から新顔まで、人選にセンスが表れている。紅白歌合戦の舞台裏のように交通整理が大変だったろう。

著者が着目するのは、トランセンデンタリズムとプラグマティズムだ。カルヴァン派ピューリタンから、リベラルなユニテリアニズムがうまれた。ユニテリアンの牧師ラルフ・エマソンは、自然も人間も神的だとして教会を離れ、トランセンデンタリズムのリーダーとなった。チャールズ・パース、ウィリアム・ジェームズらもユニテリアニズムに飽き足らず、プラグマティズムをうみ出した。宗教を尊重しながらも距離をとる、アメリカ独自の新思潮である。

繁栄のアメリカは自信を深め、大恐慌にもニューディールで立ち向かった。第二次世界大戦後、反共の嵐や公民権運動やフェミニズムが一段落すると、ポストモダニズムがアメリカに流入した。フーコーやデリダがよく読まれ、ネイションとしてのアメリカ、自由や人権などの普遍的価値観に疑問符が付されるようになった。すべて構築されたのなら、普遍性も真理もただの人間の想いだ。《普遍主義に抗することと人権を擁護することとが両立しうるのか》。著者はリチャード・ローティのネオ・プラグマティズムに注目する。ただ彼も、明確な結論を出してはいない。

いまアメリカは混乱の極みだ。《ポストモダニズム…が…投げかけた…問い》を前に、《アメリカ市民》は《合衆国に忠節を尽くすべきなのか…世界市民を志すべき…か》でふらついている。著者は結論を急がず、地道に《会話》を続けていくしかなかろうとする。
アメリカを作った思想 ――五〇〇年の歴史 / ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン
アメリカを作った思想 ――五〇〇年の歴史
  • 著者:ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン
  • 翻訳:入江 哲朗
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(384ページ)
  • 発売日:2021-07-12
  • ISBN-10:4480510648
  • ISBN-13:978-4480510648
内容紹介:
「新世界」に投影された諸観念が合衆国を作り、社会に根づき、そして数多の運動を生んでゆく――。アメリカ思想の五〇〇年間を通観する新しい歴史。===発端において、アメリカは、ヨーロッパ… もっと読む
「新世界」に投影された諸観念が合衆国を作り、社会に根づき、そして数多の運動を生んでゆく――。アメリカ思想の五〇〇年間を通観する新しい歴史。

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発端において、アメリカは、ヨーロッパの探検者たちが「新世界」に投影した一群の諸観念であった。それらはいかにして合衆国を築き、どのような運動を生み出していったか――。本書は、アメリカ人たちが紡いできた思想的生の物語を、国や時間や文化の境界を越える横断の歴史として描く。思想史とは、時代の問題と向きあった人びとの行為選択から彼らの知的背景を読みとること、そして彼らが生きた経験へ近づくことである。ピューリタニズムからポストモダニズムまで、あるいはトマス・ジェファソンからリチャード・ローティまで、アメリカ史に作用した観念の力を概説する画期的思想史入門。
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【目次】
日本語版への序文

序文
第1章諸帝国の世界――コンタクト以前から一七四〇年まで
第2章アメリカと環大西洋啓蒙―― 一七四一年から一八〇〇年まで
第3章リパブリカンからロマンティックへ―― 一八〇〇年から一八五〇年まで
第4章思想的権威をめぐる諸抗争―― 一八五〇年から一八九〇年まで
第5章モダニズムの諸反乱―― 一八九〇年から一九二〇年まで
第6章ルーツと根なし草―― 一九二〇年から一九四五年まで
第7章アメリカ精神の開始―― 一九四五年から一九七〇年まで
第8章普遍主義に抗して―― 一九六二年から一九九〇年代まで
エピローグ グローバリゼーションの時代のアメリカ再考、あるいは会話の継続

謝辞
訳者あとがき
原註
さらに学ぶためのブックリスト
索引

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毎日新聞 2021年9月11日

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