書評
『アメリカが嫌いですか』(新潮社)
個人主義と多様性の魅力語る
さわやかな読後感が残る。等身大のアメリカを、一語一語ことばを選ぶように語りながら、著者はアメリカの多様性とそれゆえの魅力を説いてやまない。「アメリカが嫌いですか」と声低く問いかける著者のまなざしは、アメリカンロイヤー(米国における法律業務の有資格者)を生業とするまでの個人的なアメリカ体験によって裏付けられる。反米から親米に転じた高名な作家の父が、アメリカからもたらしたスプリンクラーやタイプライターなどのグッズ。テレビやLPを通じて知る見果てぬ夢の国アメリカ。思わぬプロテスタント系病院での長期入院生活中に知り合ったアメリカ人たち。アメリカにとことんかぶれた高校時代のハワイ夏季留学。そして極め付けはジョージタウン大学への本格的留学だ。そこでアメリカ人に対する親近感と疎外感とのアンビバレントな気持ちに、しばしば苛(さいな)まれる著者の姿は、決して他人事ではありえない。
後にアメリカンロイヤーとなってワシントンへ再び戻ってからの記述は、東部アメリカの美しくも厳しい四季の移り変わりを背景とし、個々のアイテムの中にアメリカの実像を探る硬質なエッセーである。どのようなアイテムが取り上げられているのか。企業のように大きなローファーム(弁護士事務所)を跋扈するロイヤー。チャリティーやボランティアに価値を見いだす気風。クリスマスをめぐる裁判沙汰、徹底したカップル単位の生活と同性愛問題、あらゆる人種が運転するタクシードライバー、ヒスパニックを始めとする移民の成功物語、などなど。
さらに保守化した最高裁に対する、プロフェッショナルとしての著者の見方も興味深い。共和党時代に圧倒的多数となったにもかかわらず、保守派判事の意向が必ずしも保守判決につながらず、それどころか個々のケースをめぐって鋭く対立するというのが、いかにもアメリカ的だ。こうした個人主義と多様性とが維持される限り、たとえいかなる困難があろうとも、人はアメリカが嫌いにはなるまい。
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