自著解説

『日本古代史書研究』(八木書店)

  • 2022/07/29
日本古代史書研究 / 関根 淳
日本古代史書研究
  • 著者:関根 淳
  • 出版社:八木書店
  • 装丁:単行本(432ページ)
  • 発売日:2022-05-16
  • ISBN-10:4840622515
  • ISBN-13:978-4840622516
内容紹介:
史書の分析を通して古代国家の歴史認識を読み解いた新たな史料学
日本の古代文化を知るうえで欠かせない、日本書紀に始まる六国史と古事記。現存しないが、それ以前にも歴史書が存在した。幻の史書から解きほぐした、古代史書の通史誕生。

六国史以前の史書と古事記偽書説

これまで、日本古代の史書に関する研究は六国史が主で、それ以前の史書にはなかなか光が当たらなかった。今回、上梓した『日本古代史書研究』はこれまで十分に検討されてこなかった六国史以前の史書の実像を探り、そのなかで『古事記』を1つの史書としてとらえ直している。そして、そこから国史の編纂作業の実態に迫り、六国史の再検証を試みている。

本書の1つめの特徴は帝紀・旧辞から六国史にいたるまで、日本の古代史書の〝通史〟を描いたことである。帝紀・旧辞から『日本書紀』以降の六国史にいたる史書は王統譜としてつながっており、これを編纂する権力者も歴史的に重なっている。ところが、今まではこれらの古代史書の全体を流れとしてとらえた研究書がなかった。六国史とそれ以前の史書研究が断絶していたのである。

それは、天皇記・国記の実態がよく分からなかったことが理由である。第1部の第1~3章ではこの点を掘り下げ、これに第4章の『上宮記』に関する考察を加えて『日本書紀』以前までの筋道を立てた。その後、第3部の六国史の研究をはさんで、終章で帝紀・旧辞の成立から平安後期の新国史(続三代実録)にいたるまでの古代「史書」史の全体を見通している。さらに、第2、3部のコラムで中世・近世の武家の歴史書と近代・現代の天皇実録について概観したので、いちおう日本の史書全体について言及していることになる。

第1部のラスト第5章新稿では最初に『古事記』が史書であることを確認し、天皇記・国記以来の「史書」史の流れのなかに位置づけた。これが本書の2つめの特徴である。性質や内容のちがう「記紀」がほぼ同時に完成し、そのまま両立すると考えることには長らく疑問をいだいていた。『古事記』偽書説(序文偽作説)という禁断の果実に手を出した罪悪感は胸の奥底にあるが、自分が事実だと考えていることを社会にシェアできたのは良かったと思っている。


 

実録の編纂と六国史

第2部の第6・7章では実録(天皇一代ごとの記録)の編纂を認める考証を積極的におこなっている。学界では実録の編纂を認めないのが大方の理解だが、付章2の最後でも述べた通り、その決着はついていない。本書は実録編纂の可能性を最大限に引き出した論考を収録しており、その検討のための論点を網羅している。これが本書の3つめの特徴である。これらが今後、実録の存否を考察する際の踏み台になれば、と思っている。

第3部では、最初の第8章で戦後の六国史研究の全体を見渡し、本書の諸研究がどのように位置づけられるかその座標を設定した。つづく第9章で、六国史のなかでもっとも研究史の分厚い『日本書紀』について考察している。神代巻の「一書」の多様性はその解釈がむずかしいが、古代日本の柔軟な権力構造と多様な価値観を包摂する神話論の観点から読めば納得がいく。つぎの第10章は政治史の観点から『続日本紀』の歴史認識を考えた論考である。政変の評価は政治権力の推移によって変化があり、それが史書に反映されている。『続日本紀』の記述とその変遷はこれを知ることのできる格好の素材である。

史書というイデオロギー

この2つの章からうかがわれるように、史書は過去の事実の集積ではなく、その時点での政治権力やイデオロギーの表現である。史書の成立はその意味ですぐれて同時代的で政治的な問題をふくみ、それは最終的には国家の問題に行き着く。先にふれた終章では、このような問題意識をもとにして古代国家の形成と展開について述べている。本書の4つ目の特徴は、数ある古代史書を政治史・国家史の観点から読みといたことである。

第13章では「記紀」以外の古代史書について考えた。中世もふくめて、関連する史料を丹念にみていくとじつに多くの古代史書が見出せる。本書の特徴の5つめは、「記紀」研究を平準化するためにその周縁部を考察したことである。付章1は朝鮮三国の古代史書、第11章は『日本後紀』研究の可能性についてそれぞれ考え、第12章では『日本三代実録』の別称から六国史以後の史書に言及した。いずれも、本書で考察の対象とした史書を外側から照射しようとしたもので、古代史書を新たな目線でとらえる素材となることを期待したい。

本書の特徴をまとめると以上のようになる。そして、これらを現代社会の諸課題に位置づけようとしたのが本書の核心である。グローバリゼーションが加速するなかで、歴史学をはじめとする人文科学は今後、大きく転換していくにちがいない。そのなかで日本古代史研究はどこに向かえばよいのか。本書で考えたのは古代史書の研究を通じて、現代の国家や社会をとらえなおすことである。それを記した序章については、八木書店ウェブサイトで全文を公開している。

[書き手]
関根 淳(せきねあつし)
1970年茨城県大洗町生まれ。1989年茨城県立緑岡高等学校卒業。1993年上智大学文学部史学科卒業。1996年上智大学大学院文学研究科史学専攻博士前期課程修了。現在、富士見丘中学高等学校教諭。
〔主な著作〕
『日本古代史書研究』(八木書店、2022年)
『日本書紀の誕生―編纂と受容の歴史―』(共編著、八木書店、2018年)
『六国史以前―日本書紀への道のり―』(吉川弘文館、2020年)
「『日本書紀』の読書史と『古事記』」(『歴史学研究』1020 号、2022年)
日本古代史書研究 / 関根 淳
日本古代史書研究
  • 著者:関根 淳
  • 出版社:八木書店
  • 装丁:単行本(432ページ)
  • 発売日:2022-05-16
  • ISBN-10:4840622515
  • ISBN-13:978-4840622516
内容紹介:
史書の分析を通して古代国家の歴史認識を読み解いた新たな史料学

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ALL REVIEWS 2022年7月29日

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