自著解説

『文学授業のカンドコロ: 迷える国語教師たちの物語』(文学通信)

  • 2022/07/29
文学授業のカンドコロ: 迷える国語教師たちの物語 / 助川幸逸郎,幸坂健太郎,岡田真範,難波博孝,山中勇夫
文学授業のカンドコロ: 迷える国語教師たちの物語
  • 著者:助川幸逸郎,幸坂健太郎,岡田真範,難波博孝,山中勇夫
  • 編集:助川幸逸郎,幸坂健太郎
  • 出版社:文学通信
  • 装丁:単行本(232ページ)
  • 発売日:2022-07-13
  • ISBN-10:4909658807
  • ISBN-13:978-4909658807
内容紹介:
小中高の国語の授業、必携書!国語の授業で、現場の教員が一番悩んでしまう「視点」「語り手」についてわかりやすく伝え、考える、今まであるようでなかった本です。本書は、文学教材をより深… もっと読む
小中高の国語の授業、必携書!
国語の授業で、現場の教員が一番悩んでしまう「視点」「語り手」についてわかりやすく伝え、考える、今まであるようでなかった本です。
本書は、文学教材をより深く理解するための「視点」「語り手」を、なるべくわかりやすく現場の先生方に伝えるべく、物語仕立てでお届けします。
取りあげる教材は、「ごんぎつね」(新美南吉)、「走れメロス」(太宰 治)、「羅生門」(芥川龍之介)、「海の命」(立松和平)、「少年の日の思い出」(ヘルマン・ヘッセ 高橋健二訳)、「鏡」(村上春樹)、「白いぼうし」(あまんきみこ)、「故郷」(魯迅・竹内 好訳)、「舞姫」(森 鷗外)。本文中で引用するほか、全文を巻末に掲載しました。また随所にコラムを配し、「視点」「語り手」のことを理解できるように努めました。

文学が私たちにどんな影響を及ぼすのか、私たちがなぜ文学を国語教室で子どもたちに読ませるのか。これらを根源的に考えるために。時代が変わっても、本質的な問いを立て続け、子どもたちと考え続けるために。考え抜いて作った本です。
同時に物語読解のための、「視点」「語り手」について学ぶための入門書にもなっています。

執筆は、助川幸逸郎、幸坂健太郎、岡田真範、難波博孝、山中勇夫。
執筆協力に、井浪真吾(岡山理科大学教育学部講師)、金田唯人(北海道根室高等学校教諭)、菊野雅之(北海道教育大学釧路校准教授)、鈴木愛理(弘前大学教育学部准教授)、高瀬裕人(琉球大学教育学部准教授)、難波健悟(岡山県立岡山操山高等学校教諭)。

【「現場の先生たちは、いそがしい」。ワタシが役に立てることは、何かないものだろうか――。日本文学研究者のスケガワは、今日もそんな思いで、国語の先生たちの勉強会に参加する。
子どもたちを前に、授業に力を尽くしたいと考えている仲間、ヤマナカ先生、ナンバ先生、オカダ先生、加えて学生のコウサカ君とともに日々、文学授業の勉強会をひらいているのだ。
本書は、そんな迷える国語教師たちによるある日の勉強会の物語。何やら楽しげですよ。】
『文学授業のカンドコロ 迷える国語教師たちの物語』(文学通信)は、学校現場の先生たちに、文学授業を行ううえでの基礎理論をわかりやすく伝える本だ。「ごんぎつね」「走れメロス」「舞姫」「羅生門」「海の命」「少年の日の思い出」「鏡」「白いぼうし」「故郷」などを例に、物語仕立てで伝える、かつてなかった本だ。なぜ文学を国語教室で子どもたちに読ませるのか、根源的に考える本でもある。そこには、みんなで一緒に文学教育について考えてみませんかというメッセージも込めている。

研究書でも、ハウツー本でもない、不思議な本

あまり他ではお目にかからない本になった。
『文学授業のカンドコロ 迷える国語教師たちの物語』は、研究書のようなキチっとした本ではなく、明日から使えるハウツー本でもない。明らかにこの本は、文学教育に関わる類書の中で異彩を放っている。

ハウツー本ではないので、明日の授業には役立たないかもしれない。どちらかといえば、腰を据えて、時間をかけて文学教育について考えたい、という人向けの本である。しかも、視点・語り手という文学の読みの基礎概念を説明しているので、既にこれらの概念を知ってるよ、という人には向かないかもしれない。研究論文・研究書ではないので、背景知識が必要だとか、難解な言い回しについていかなきゃとかいう気負いは不要である。サラッと手に取り、目を通せるようになっている。

「じゃあこの本は、文学教育を学ぼうと考え始めた初学者向けの、基礎概念の解説書ね」と思われるだろう。

はい、そうです。表向きには。

もちろん、何よりもそのような方々にこの本を届けたい、とは思っている。だが、この本のメッセージが指す範囲はもう少し広い。ここでは、そのことを申し上げたい。

「研究者、国語科教育学研究者、学校の先生がみんな仲良く」 の難しさ

この本には、さまざまなメッセージを込めた。多くの「物語」の書き手が自作を解説するような無粋なことをしないのと同じく、「物語」と冠されたこの本のメッセージを詳らかにはしたくない。ただ、本書は教育書であり、その意図・主張をある程度公(おおやけ)に開く必要はある。どうしてもこの本のメッセージを一つだけ取り上げて説明せねばならないとすれば、私は、次の本書の“裏の”メッセージを取り上げる。

それは、「文学教育に関わるみんな、仲良くしようぜ」である。

私はいつも思う。「研究者も先生方も、みんな仲良く、力を合わせて国語の授業づくりできたらなあ」と。しかし、現実はそうはいかない。お互いの考え方や価値観が異なる中、「みんな仲良く」など、夢物語であるかのように感じる。私も、研究者として働き始めて以来、「研究者がいうのは机上の空論」(by 現場の先生)とか、「文学のこと何もわかってないから、話しても仕方ない」(by 文学研究者)とかいう、悲しい断絶の言葉に接する機会が増えた。それらの言葉に出会うたびに、(自分の力量不足を反省するとともに)「何とか、教育実践の関係者間で仲良くできんものか」と悶々としていた。

文学教育でいえば、“関係者”は大きく次の三つ。すなわち、文学研究者、国語科教育学研究者、学校の先生方である。この三者のつながりをもっと円滑にしたい、というのが私の願いである。当然、文学教育に関わる全国の関係者がみな「仲良く」ないわけではない。でも、関係者、特に文学研究者を含めた関係者が「仲良く」している取り組みなんて、ほとんど公には出てこないのが現実である。

これは、「みんなで仲良く」書いた本

その点、この本はとても新しい。なぜなら、(本の内容にもそのような世界が描かれているが)文学研究者である助川、国語科教育学研究者である幸坂・難波、学校教員である岡田・山中が「仲良く」書いた本だからである。

実は、この本を書くまで、私たちはさほど「仲良く」していたわけではなかった。確かに、特定のメンバー間でのつながりはあった。しかし、5人グループとしては面識がほぼなく、私自身、この本を書くまで助川・岡田・山中とは話をしたこともなかった。この本を書きながら、協働したのである。対話し、関係性をほぼゼロからつくったのである 。時に考え方や価値観の相違に直面し、究極的にはわかり合えないことに気づきながらも、「仲良く」本を書くよう努力したのである。

私たちが「仲良く」この本を書いたことは、本書の執筆過程を振り返った次の助川のTwitter投稿からもうかがえる。

「本をつくっていて、こんなに楽しかったのは2008年に出版したデビュー作以来です。共著はたくさん出してきましたが、今回は『チームでつくる』感満載で、本をつくていく過程に、稽古をかさねて芝居の本番をめざすときのような高揚感がありました。いっしょに戦ってくださった先生方に感謝、感謝です……」(Koichiro Sukegawa @Teika27、原文ママ )

つまりこの本は、「文学教育に関わるみんな」が「仲良く」書くことを実践した、その取り組み例なのである。

「内輪での仲良しアピールかよ」と鼻白むかもしれないが、仲良しアピールをして何が悪い、と開き直らせていただく。文学研究者、国語科教育学研究者、学校の先生方が仲良しアピールできるぐらい連携し、その実例を示すこと。異なる領域の人々が「仲良く」するということが決して夢物語ではない、という希望を示すこと。そして、その「仲良し」の輪を広げていくこと。それが文学教育の未来を創る上で不可欠であると、私は思う。

「何やら楽しげですよ。」

この本の表紙をめくった、カバーのそでに書かれた誘い文句である。ぜひ、あなたも「仲良く」しませんか。一緒に、文学教育について考えてみませんか。この本から、そんな“裏の”メッセージも伝わると嬉しいな、と思う。

そして、この本を読むことで生じた「何らかの変化」を、いつか共有できればと思う。

[書き手]
幸坂健太郎(こうさか・けんたろう)
1986年生まれ。北海道教育大学札幌校准教授。主な論文に「論説・評論を「自分と結びつける」ことの概念区分」(『読書科学』61(2)、2019年)がある。
文学授業のカンドコロ: 迷える国語教師たちの物語 / 助川幸逸郎,幸坂健太郎,岡田真範,難波博孝,山中勇夫
文学授業のカンドコロ: 迷える国語教師たちの物語
  • 著者:助川幸逸郎,幸坂健太郎,岡田真範,難波博孝,山中勇夫
  • 編集:助川幸逸郎,幸坂健太郎
  • 出版社:文学通信
  • 装丁:単行本(232ページ)
  • 発売日:2022-07-13
  • ISBN-10:4909658807
  • ISBN-13:978-4909658807
内容紹介:
小中高の国語の授業、必携書!国語の授業で、現場の教員が一番悩んでしまう「視点」「語り手」についてわかりやすく伝え、考える、今まであるようでなかった本です。本書は、文学教材をより深… もっと読む
小中高の国語の授業、必携書!
国語の授業で、現場の教員が一番悩んでしまう「視点」「語り手」についてわかりやすく伝え、考える、今まであるようでなかった本です。
本書は、文学教材をより深く理解するための「視点」「語り手」を、なるべくわかりやすく現場の先生方に伝えるべく、物語仕立てでお届けします。
取りあげる教材は、「ごんぎつね」(新美南吉)、「走れメロス」(太宰 治)、「羅生門」(芥川龍之介)、「海の命」(立松和平)、「少年の日の思い出」(ヘルマン・ヘッセ 高橋健二訳)、「鏡」(村上春樹)、「白いぼうし」(あまんきみこ)、「故郷」(魯迅・竹内 好訳)、「舞姫」(森 鷗外)。本文中で引用するほか、全文を巻末に掲載しました。また随所にコラムを配し、「視点」「語り手」のことを理解できるように努めました。

文学が私たちにどんな影響を及ぼすのか、私たちがなぜ文学を国語教室で子どもたちに読ませるのか。これらを根源的に考えるために。時代が変わっても、本質的な問いを立て続け、子どもたちと考え続けるために。考え抜いて作った本です。
同時に物語読解のための、「視点」「語り手」について学ぶための入門書にもなっています。

執筆は、助川幸逸郎、幸坂健太郎、岡田真範、難波博孝、山中勇夫。
執筆協力に、井浪真吾(岡山理科大学教育学部講師)、金田唯人(北海道根室高等学校教諭)、菊野雅之(北海道教育大学釧路校准教授)、鈴木愛理(弘前大学教育学部准教授)、高瀬裕人(琉球大学教育学部准教授)、難波健悟(岡山県立岡山操山高等学校教諭)。

【「現場の先生たちは、いそがしい」。ワタシが役に立てることは、何かないものだろうか――。日本文学研究者のスケガワは、今日もそんな思いで、国語の先生たちの勉強会に参加する。
子どもたちを前に、授業に力を尽くしたいと考えている仲間、ヤマナカ先生、ナンバ先生、オカダ先生、加えて学生のコウサカ君とともに日々、文学授業の勉強会をひらいているのだ。
本書は、そんな迷える国語教師たちによるある日の勉強会の物語。何やら楽しげですよ。】

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