後書き
『スポーツの歴史: その成り立ちから文化・社会・政治・ビジネスまで』(原書房)
スポーツは人間や社会とどう関わり、発展したのか。スポーツのはじまりと時代背景、代表的競技の歴史、政治・権力との関係、ビジネス、文化、ジェンダー、環境問題まで、あらゆる面からスポーツ全般の歴史を描いた書籍『スポーツの歴史』より、訳者あとがきを公開します。
著者のレイ・ヴァンプルーは1943年英ヨークシャー生まれ。現在スコットランドにあるスターリング大学のスポーツ史名誉教授で、エディンバラ大学のスポーツアカデミー海外研究員でもあります。オーストラリアに帰化し18年間在住していただけあって、イギリスを中心としたヨーロッパだけでなく南半球の大英帝国圏のスポーツについても詳しく論じています。もちろんスポーツが巨大産業となっているアメリカや重要スポーツにも深く踏みこんでいますが。意外なのは日本のスポーツも多く取りあげていること。相撲や柔道、柔術、剣道、薙刀も紹介されています。
本書が大きなテーマにしているのが、通説化しているスポーツの神話。その真偽を確かな史料をもとに検証しています。たとえばアマチュアリズムについて。プロの選手は20世紀の後半までオリンピックに出場できませんでした。ところが古代ギリシャでは、優勝賞金・賞品を目当てに、選手がオリンピアなどの競技会を渡り歩いています。アマチュアリズムが生まれたのは19世紀のイギリスで、有閑階級が労働階級をスポーツから排除するための口実でした。スポーツと関係ない仕事をしていても、アマチュアスポーツには参加できなかったのです。現代のアメリカのカレッジフットボールも、その脆弱な根拠の呪縛にとらわれている、と筆者は指摘します。選手は学費を免除されるだけで練習に追われ、アルバイトもできず貧困に陥っている。その一方でチームの監督は巨万の富を得ている。学生がプロにも匹敵する観客を集めているのに、タダ働きをしているのはおかしい。スポーツ選手が生活できる配慮が必要だ、という主張が本書を貫いています。
その他にも本書はメガイベントの功罪(コロナ禍の中開催された2021年東京オリンピックは記憶に新しいところです)、スポーツと政治、スポーツと暴力、ドーピング、ジェンダーや差別、八百長など、現代スポーツの問題点を浮き彫りにしています。
朝のニュースで選手やチームの活躍を知って、気持ちが明るくなることはありませんか。野球のメジャーリーグ、ゴルフのマスターズ、ラグビーW杯、テニスのグランドスラム、マラソン、四輪レース(F1、ル・マン)、ヨットのアメリカズカップ、フィギュアスケート……。この本の中にきっとお目当てのスポーツが見つかるでしょう。
[書き手]角敦子(翻訳家)
遊戯から競技へ
本書はレイ・ヴァンプルー著『GAME PEOPLE PLAYED : A Global History of Sports』の全訳です。英語の「game」には「遊戯、運動、勝負、試合、競技会」の意味があり、日本の野球中継でも「今日のゲームは」という表現がよく使われます。そもそも遊戯として始まったスポーツ。世界中に転がっている石ころと棒の遊びだったり、相手がいれば興じられる格闘技、あるいは船頭どうしの腕の競いあい、村と村のビール樽の争奪戦、寒冷地の長い冬の余興だったり……。そうした勝負をするうちに正式なルールが定められ、規模の大きなスポーツクラブや競技会が設立され、工業化や近代化による時流の変化とともにさまざまな問題を包含しながら発展していく。人間がやる以上、そこには必ず正の歴史もあれば負の歴史もある。本書はわたしたちにとって身近な活動、スポーツの歴史や経済など多角的な面に注目しながら、現代スポーツの問題のルーツをたどっていきます。著者のレイ・ヴァンプルーは1943年英ヨークシャー生まれ。現在スコットランドにあるスターリング大学のスポーツ史名誉教授で、エディンバラ大学のスポーツアカデミー海外研究員でもあります。オーストラリアに帰化し18年間在住していただけあって、イギリスを中心としたヨーロッパだけでなく南半球の大英帝国圏のスポーツについても詳しく論じています。もちろんスポーツが巨大産業となっているアメリカや重要スポーツにも深く踏みこんでいますが。意外なのは日本のスポーツも多く取りあげていること。相撲や柔道、柔術、剣道、薙刀も紹介されています。
本書が大きなテーマにしているのが、通説化しているスポーツの神話。その真偽を確かな史料をもとに検証しています。たとえばアマチュアリズムについて。プロの選手は20世紀の後半までオリンピックに出場できませんでした。ところが古代ギリシャでは、優勝賞金・賞品を目当てに、選手がオリンピアなどの競技会を渡り歩いています。アマチュアリズムが生まれたのは19世紀のイギリスで、有閑階級が労働階級をスポーツから排除するための口実でした。スポーツと関係ない仕事をしていても、アマチュアスポーツには参加できなかったのです。現代のアメリカのカレッジフットボールも、その脆弱な根拠の呪縛にとらわれている、と筆者は指摘します。選手は学費を免除されるだけで練習に追われ、アルバイトもできず貧困に陥っている。その一方でチームの監督は巨万の富を得ている。学生がプロにも匹敵する観客を集めているのに、タダ働きをしているのはおかしい。スポーツ選手が生活できる配慮が必要だ、という主張が本書を貫いています。
その他にも本書はメガイベントの功罪(コロナ禍の中開催された2021年東京オリンピックは記憶に新しいところです)、スポーツと政治、スポーツと暴力、ドーピング、ジェンダーや差別、八百長など、現代スポーツの問題点を浮き彫りにしています。
朝のニュースで選手やチームの活躍を知って、気持ちが明るくなることはありませんか。野球のメジャーリーグ、ゴルフのマスターズ、ラグビーW杯、テニスのグランドスラム、マラソン、四輪レース(F1、ル・マン)、ヨットのアメリカズカップ、フィギュアスケート……。この本の中にきっとお目当てのスポーツが見つかるでしょう。
[書き手]角敦子(翻訳家)
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