書評

『物語 スコットランドの歴史-イギリスのなかにある「誇り高き国」』(中央公論新社)

  • 2022/10/07
物語 スコットランドの歴史-イギリスのなかにある「誇り高き国」 / 中村 隆文
物語 スコットランドの歴史-イギリスのなかにある「誇り高き国」
  • 著者:中村 隆文
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(250ページ)
  • 発売日:2022-05-23
  • ISBN-10:4121026969
  • ISBN-13:978-4121026965
内容紹介:
ケルト文化、啓蒙思想、「地酒」ウイスキー、ゴルフ、フットボール……イギリスの中にある「もう一つの国」の歴史。独立の可能性は?

起源から探る独立運動の背景

フランス屋の私とってスコットランドは視野から外せない国(地域)である。イングランドと長いあいだ敵対していたフランスは敵の敵は味方の論理からスコットランドと結びつくことが多かったからだ。

スコットランドの起源はスコットランド系ケルト人の国「アルバ」とアイルランド系ケルト人の「ダルダリア王国」が843年に合同して生まれた「統一アルバ王国」に溯(さかのぼ)るが、1066年にノルマン朝イングランドが成立するとスコットランドは早くもフランスに接近。これは1295年には両国間の「古い同盟」として結晶する。

以後、スコットランドはイングランドとフランスとの狭間で揺れ動くが、その相克はスコットランド王ジェイムズ五世がフランス・ギーズ家のマリーを妻に迎えた十六世紀半ばに頂点に達する。この時代、スコットランドは①親英派貴族、②親フランスのカトリック貴族、③改革派プロテスタント長老主義派の三つに分裂していたが、女王メアリが夫のフランス王の死去でスコットランドに戻り、カトリック貴族ヘンリー・スチュアートと再婚するとイングランドが介入してくる。エリザベス一世はチューダー家の王位継承権を持つメアリーを警戒し、①と②の勢力を使ってメアリをスコットランドから追放させ、イングランドに亡命したメアリを処刑する。だが、エリザベス一世が独身のまま死去するや、イングランド王位はメアリ女王の遺児でスコットランド王のジェイムズ六世(イングランド王ジェイムズ一世)に行く。1603年のことである。「こうして、イングランドとスコットランドは同君連合(王冠連合)となり、ジェイムズ一世が『グレートブリテンの王』を名乗ることとなった」

スコットランドには好ましく思えた状況変化だが、王権神授説を奉ずるジェイムズ一世は国教会の監督制徹底でスコットランドのプロテスタントもカトリックも抑圧する。この構造は次のチャールズ一世にも受け継がれ、1638年にはスコットランド長老派の盟約軍と王軍との戦争が始まる。王はイングランド議会とも対立し、内戦(清教徒革命)が勃発、最後は、チャールズ一世がクロムウェルに処刑されて終わる。

しかし、クロムウェルは1658年に死去し、チャールズ二世が戻って王政復古となったので、スコットランドはふたたび希望を持つが、フランス亡命中にカトリックに染まったチャールズ二世によって希望はたちまち潰える。名誉革命後には、フランスに亡命したジェイムズ二世をかついだ「ジャコバイト」の乱も弾圧され、1707年には合同法が成立して、スコットランドは自治権を失う。以後、政治的・経済的には衰退の一途をたどるが、十八世紀後半から文化的に大復活を遂げる。

すなわち、ヒューム、アダム・スミスらのスコットランド啓蒙主義者、バーンズ、スコット、ドイルらの詩人・小説家、そしてワットやベルらの科学者・産業人などがスコットランドから輩出し、大英帝国躍進の原動力となるのだ。著者はこの奇跡の大復活の原因をスコットランドの教育水準の高さに求めているが、これは三十年以上も衰退を続ける日本の良い参考になるのではないだろうか?

近年、再燃しているスコットランド独立運動の背景を知るのにも最適の一冊である。

【オンラインイベント情報】2022/10/08 (土) 20:00 - 21:30 中村 隆文×鹿島 茂、中村 隆文『物語 スコットランドの歴史』(中央公論新社)を読む

書評アーカイブサイト・ALL REVIEWSのファンクラブ「ALL REVIEWS 友の会」の特典対談番組「月刊ALL REVIEWS」、第45回のゲストは神奈川大学国際日本学部日本文化学科教授の中村 隆文さん。メインパーソナリティーは鹿島茂さん。
https://allreviews.jp/news/5958
物語 スコットランドの歴史-イギリスのなかにある「誇り高き国」 / 中村 隆文
物語 スコットランドの歴史-イギリスのなかにある「誇り高き国」
  • 著者:中村 隆文
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(250ページ)
  • 発売日:2022-05-23
  • ISBN-10:4121026969
  • ISBN-13:978-4121026965
内容紹介:
ケルト文化、啓蒙思想、「地酒」ウイスキー、ゴルフ、フットボール……イギリスの中にある「もう一つの国」の歴史。独立の可能性は?

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2022年6月11日

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