書評

『日本の西洋史学 先駆者たちの肖像』(講談社)

  • 2023/10/10
日本の西洋史学 先駆者たちの肖像 / 土肥 恒之
日本の西洋史学 先駆者たちの肖像
  • 著者:土肥 恒之
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(320ページ)
  • 発売日:2023-03-09
  • ISBN-10:4065312639
  • ISBN-13:978-4065312636
内容紹介:
明治維新以来、「西洋化」は日本の国策であり、西洋は日本人のモデルであり続けた。では、西洋人が自らの政治・経済・文化・社会の来歴を探求した歴史学を、日本人が学ぶことにはどんな意味が… もっと読む
明治維新以来、「西洋化」は日本の国策であり、西洋は日本人のモデルであり続けた。では、西洋人が自らの政治・経済・文化・社会の来歴を探求した歴史学を、日本人が学ぶことにはどんな意味があったのだろうか。明治から昭和まで、先駆者たちの生き方と著作から、「西洋史家の誕生と苦悩」のドラマを描く。
明治20年、帝国大学に着任したお雇い外国人教師、ルートヴィヒ・リースが、ドイツでランケが確立した近代歴史学を講義したのが、日本の歴史学の始まりだった。リースの弟子で日欧交渉史を開拓した村上直次郎、慶應義塾に学び経済史学の草分けとなった野村兼太郎、ルネサンス論の大類伸、イタリア史の羽仁五郎。マルクスとウェーバーへの深い理解から大きな業績を残した大塚久雄。そして、戦時下の西洋史家たちは「大東亜戦争の世界史的意義」をどのように論じたのか。
また、1920年代にウィーンに留学し、西洋の「受け売り」でも「追随」でもなく、みずから「原史料を直接考究する」主体的学問を確立した上原専禄は、戦後、13世紀のモンゴルの世界征服の時代を「世界史の起点」とする新たな世界史の構想を得るに至る。
[原本:『西洋史学の先駆者たち』中央公論新社2012年刊を増補]
伝統という土壌がないところに学問は生まれない。まして歴史学となるとなおさらのこと。維新後、「お雇い外国人」が招かれ、ドイツ人歴史学教師L・リースが来日、帝国大学の教授になった。契約期間は数度更新され、在任は十五年余りにおよんでいる。

最初の学生には白鳥庫吉がおり、東洋史の草分けとなった。日本には西洋史の史料も文献もないので、日欧交渉史なら研究可能と期待され、村上直次郎、幸田成友らが大家になった。それとともに、後に西洋史学の草分けとなる坂口昂も出ている。先の幸田と親しく交わった学徒に、西洋中世史の増田四郎、高村象平がおり、西洋経済史の巨匠になる大塚久雄もいたという。

A・ピレンヌやA・ドープシュの名は戦後生まれの世代にもなじみ深いが、ウィーン大学に留学してドープシュ教授に師事したのが上原専禄である。原史料主義に立つ上原の研究は戦後の中世史研究を牽引した堀米庸三も一目おかざるをえなかったが、戦後の上原は「日本人のための世界史像」を模索した。

明治以来の先駆者たちの生き方と著作から、西洋史学の誕生を跡付ける良書。
日本の西洋史学 先駆者たちの肖像 / 土肥 恒之
日本の西洋史学 先駆者たちの肖像
  • 著者:土肥 恒之
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(320ページ)
  • 発売日:2023-03-09
  • ISBN-10:4065312639
  • ISBN-13:978-4065312636
内容紹介:
明治維新以来、「西洋化」は日本の国策であり、西洋は日本人のモデルであり続けた。では、西洋人が自らの政治・経済・文化・社会の来歴を探求した歴史学を、日本人が学ぶことにはどんな意味が… もっと読む
明治維新以来、「西洋化」は日本の国策であり、西洋は日本人のモデルであり続けた。では、西洋人が自らの政治・経済・文化・社会の来歴を探求した歴史学を、日本人が学ぶことにはどんな意味があったのだろうか。明治から昭和まで、先駆者たちの生き方と著作から、「西洋史家の誕生と苦悩」のドラマを描く。
明治20年、帝国大学に着任したお雇い外国人教師、ルートヴィヒ・リースが、ドイツでランケが確立した近代歴史学を講義したのが、日本の歴史学の始まりだった。リースの弟子で日欧交渉史を開拓した村上直次郎、慶應義塾に学び経済史学の草分けとなった野村兼太郎、ルネサンス論の大類伸、イタリア史の羽仁五郎。マルクスとウェーバーへの深い理解から大きな業績を残した大塚久雄。そして、戦時下の西洋史家たちは「大東亜戦争の世界史的意義」をどのように論じたのか。
また、1920年代にウィーンに留学し、西洋の「受け売り」でも「追随」でもなく、みずから「原史料を直接考究する」主体的学問を確立した上原専禄は、戦後、13世紀のモンゴルの世界征服の時代を「世界史の起点」とする新たな世界史の構想を得るに至る。
[原本:『西洋史学の先駆者たち』中央公論新社2012年刊を増補]

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年8月19日

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