伝統という土壌がないところに学問は生まれない。まして歴史学となるとなおさらのこと。維新後、「お雇い外国人」が招かれ、ドイツ人歴史学教師L・リースが来日、帝国大学の教授になった。契約期間は数度更新され、在任は十五年余りにおよんでいる。
最初の学生には白鳥庫吉がおり、東洋史の草分けとなった。日本には西洋史の史料も文献もないので、日欧交渉史なら研究可能と期待され、村上直次郎、幸田成友らが大家になった。それとともに、後に西洋史学の草分けとなる坂口昂も出ている。先の幸田と親しく交わった学徒に、西洋中世史の増田四郎、高村象平がおり、西洋経済史の巨匠になる大塚久雄もいたという。
A・ピレンヌやA・ドープシュの名は戦後生まれの世代にもなじみ深いが、ウィーン大学に留学してドープシュ教授に師事したのが上原専禄である。原史料主義に立つ上原の研究は戦後の中世史研究を牽引した堀米庸三も一目おかざるをえなかったが、戦後の上原は「日本人のための世界史像」を模索した。
明治以来の先駆者たちの生き方と著作から、西洋史学の誕生を跡付ける良書。