書評

『花粉ハンドブック』(文一総合出版)

  • 2023/12/10
花粉ハンドブック / 日下石 碧
花粉ハンドブック
  • 著者:日下石 碧
  • 出版社:文一総合出版
  • 装丁:単行本(128ページ)
  • 発売日:2023-03-03
  • ISBN-10:4829981741
  • ISBN-13:978-4829981740
内容紹介:
身近な植物89科186種の花粉を紹介する図鑑。観察で一般的に使われる光学顕微鏡での見え方の写真を掲載し、線画スケッチと花の写真も合わせて掲載することで調べやすく、授業や実験・調べ物学… もっと読む
身近な植物89科186種の花粉を紹介する図鑑。
観察で一般的に使われる光学顕微鏡での見え方の写真を掲載し、線画スケッチと花の写真も合わせて掲載することで調べやすく、授業や実験・調べ物学習のお供として役立つ。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

この本の見どころ
[その1]実際の見え方の花粉写真がたくさん!
花粉症の原因となるスギやタンポポやサクラまで、身の回りの植物89科186種の花粉を紹介しています。過去の花粉写真の本や図鑑は、ほとんどが普段使うことのできない電子顕微鏡(研究用ですごく細かい部分まで見える顕微鏡)で撮影したものです。しかし、本書では小中学校や自由研究で使う光学顕微鏡での実際の見え方の写真を載せているので、授業や趣味の顕微鏡観察に役立ちます。

[その2]似ているように見えるけど、奥が深い!
顕微鏡で見ても、花粉のほとんどは黄色で丸いように見えます。しかし、なかには空気の袋がついていたり(マツ)、トゲがいっぱい生えていたり(アサガオ)、ブーメランのようなかたちになっているものもあります(ヒルザキツキミソウ)。また、水で花粉を運ぶアマモのような植物や、イチョウのように花粉が精子へと成長して実がなる植物もいます。

[その3]花粉を採って、観て、保管するまでがわかる!
この花の花粉はどんなかたちで、どうしてこうなったんだろう? と考えてみる楽しさが花粉の醍醐味です。本書では、おうちのまわりでもできる花粉の採集や保管の仕方、観察の手順、花粉スケッチで注目するべきポイントや構造についてわかりやすく解説しています。
思えば、敵のことをちっとも知らなかった。知らないくせに憎悪だけをぶつけてはならぬと、鼻にティッシュを突っ込んだまま読み進める。

長年、過度の花粉症である。「今年の花粉はすごいです」といった報道を前に、私たちは「毎年ひどいよ」と切り返してきた。誰かが救ってくれるわけでもない。政治家がパフォーマンスで「花粉症ゼロ」を打ち出したこともあったが、大きな成果はない。耐えるしかない日々が続く。

「昔はなかった」「この時期は海外へ逃げちゃいます」、そんな声も聞く。つまり大した歴史はないし、地域も限定されたものなのだ。『花粉ハンドブック』(日下石碧(にっけしあおい)著・文一総合出版・1980円)を開くと、「スギは戦中・戦後の物資や燃料として、また成長の早い在来の植物として森林が荒廃した場所に好んで植えられました」とある。それは知っている。そもそもなぜ、スギやヒノキだけがこんなに人間を苦しめるのか。

送粉・受粉には様々な形があり、もっとも多いのが、昆虫などに花粉の媒介を依存する「動物媒花」。花をつける植物の9割近くを占めている。スギやヒノキは「風媒花」。風に頼るしかないのだ。
こう書いてある。

「雌しべには偶然届けばよく、数を打てば当たる作戦のため、生産花粉数は非常に多い」。

まるで、ダイレクトメールを送る業者のような言い分である。スギの1個の雄花に含まれる花粉数は40万粒程度とのこと。多すぎだろう。あなたたちのやり方が無茶だから、こっちの体内にまで入り込むのだ。
しかし、花粉そのものを嫌ってはいけない。花粉がなくなれば「あらゆる植物が種子を生産できなくなり、ほとんどの植物は絶滅してしまう」し、そうなれば、草食動物も絶滅する。「日本でも送粉昆虫に依存している作物の金額は4300億円と試算」されているという。

共存するため、花粉の意義を学ぶ。何枚もティッシュを使いつつ、豊富な写真を眺める。花粉の飛散が収まってくる時期に読むことをお薦めする。敵を知ろう。
花粉ハンドブック / 日下石 碧
花粉ハンドブック
  • 著者:日下石 碧
  • 出版社:文一総合出版
  • 装丁:単行本(128ページ)
  • 発売日:2023-03-03
  • ISBN-10:4829981741
  • ISBN-13:978-4829981740
内容紹介:
身近な植物89科186種の花粉を紹介する図鑑。観察で一般的に使われる光学顕微鏡での見え方の写真を掲載し、線画スケッチと花の写真も合わせて掲載することで調べやすく、授業や実験・調べ物学… もっと読む
身近な植物89科186種の花粉を紹介する図鑑。
観察で一般的に使われる光学顕微鏡での見え方の写真を掲載し、線画スケッチと花の写真も合わせて掲載することで調べやすく、授業や実験・調べ物学習のお供として役立つ。

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この本の見どころ
[その1]実際の見え方の花粉写真がたくさん!
花粉症の原因となるスギやタンポポやサクラまで、身の回りの植物89科186種の花粉を紹介しています。過去の花粉写真の本や図鑑は、ほとんどが普段使うことのできない電子顕微鏡(研究用ですごく細かい部分まで見える顕微鏡)で撮影したものです。しかし、本書では小中学校や自由研究で使う光学顕微鏡での実際の見え方の写真を載せているので、授業や趣味の顕微鏡観察に役立ちます。

[その2]似ているように見えるけど、奥が深い!
顕微鏡で見ても、花粉のほとんどは黄色で丸いように見えます。しかし、なかには空気の袋がついていたり(マツ)、トゲがいっぱい生えていたり(アサガオ)、ブーメランのようなかたちになっているものもあります(ヒルザキツキミソウ)。また、水で花粉を運ぶアマモのような植物や、イチョウのように花粉が精子へと成長して実がなる植物もいます。

[その3]花粉を採って、観て、保管するまでがわかる!
この花の花粉はどんなかたちで、どうしてこうなったんだろう? と考えてみる楽しさが花粉の醍醐味です。本書では、おうちのまわりでもできる花粉の採集や保管の仕方、観察の手順、花粉スケッチで注目するべきポイントや構造についてわかりやすく解説しています。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年4月15日

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