書評
『暮らしを美しくするコツ509』(暮しの手帖社)
掃除にも発見がある
「ふつうの暮らし」のありがたさが身にしみる。なにが「ふつう」なのかはよくわからないが。貧乏でいいから、安全で安心な生活をしたい。少なくとも、子どもたちや若い人たちが、将来の健康の不安を抱くような社会であってはならないと思う。暮らしを大切にしようという人は、かつて「生活保守主義者」とか「マイホーム主義者」と呼ばれて蔑まれた。自分さえよければというエゴイズムと混同されたし、実際そういう面もなかったわけではない。
だが、日々の生活を大切にすることを突き詰めていけば、やがてそれは世界をひっくり返すような力になりうるだろう。敗戦後まもなく雑誌「暮しの手帖」を創刊した、大橋鎮子(しずこ)と花森安治には、そのような考えがあったと思う。
編集長がエッセイストの松浦弥太郎になってからも、同誌の基本は変わることがない。『暮らしを美しくするコツ509』に書かれているのは、風呂場のカビとりのコツやコロッケの揚げかた、ワイシャツの干しかたなど。日常の小さな小さなヒントばかりだ。しかし、その積み重ねが生活を豊かにしていく。
〈どんなに立派といわれる仕事や学びよりも、料理や掃除、洗濯という、日々繰り返される暮らし全般の仕事こそがもっとも尊い行為であり、そこにこそ真理があり、本当の学びや楽しみがあります〉と松浦弥太郎は「まえがき」で書いている。
毎日の掃除は、私がおこなう数少ない家事のひとつ(というよりも唯一)である。私は掃除している時間が楽しい。それなりに上達したと思っていたが、本書には知らなかったコツがたくさんある。
たとえば、掃除の順序は「乾から水」。乾拭きしたあと、汚れが残っていたら水拭きするのがコツだという。いままで逆、つまり水拭きしたあと、仕上げ気分で乾拭きをしていた。
たかが掃除とあなどるなかれ。新たな発見はまだまだある。
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