書評

『花森安治選集 第1巻』(暮しの手帖社)

  • 2021/06/03
花森安治選集 第1巻 / 花森 安治
花森安治選集 第1巻
  • 著者:花森 安治
  • 出版社:暮しの手帖社
  • 装丁:単行本(500ページ)
  • 発売日:2020-05-30
  • ISBN-10:4766002164
  • ISBN-13:978-4766002164
内容紹介:
戦後直後の激動の昭和において、『暮しの手帖』の初代編集長・花森安治が、ペンの力で庶民の暮しをより良くしようと提言してきた散文、随筆、評論、コラムから厳選収録した選集全3巻を刊行し… もっと読む
戦後直後の激動の昭和において、『暮しの手帖』の初代編集長・花森安治が、
ペンの力で庶民の暮しをより良くしようと提言してきた散文、随筆、評論、コラムから厳選収録した選集全3巻を刊行します。
1巻では、花森が敗戦後すぐに服飾評論家として世に出たころの「衣」を中心とした稀有な著述で構成。
服飾デザインとは何か、身だしなみや着こなし、色彩感覚の大切さ、装いの基本を読者に伝えるとともに、
ユーモラスな調子と時に毒をも持って説いた「ほんとうの美しさ」とは何か。花森安治の「衣」を通じた美学がつまった一冊です。

着て食べて…個人の営みが主役

「暮しを軽蔑する人間は、そのことだけで、軽蔑に値するのである」。今こうして、できる限り家にいなければならない生活に、花森安治の言葉が改めて染み込む。

「おそらく、一つの内閣を変えるよりも、一つの家のみそ汁の作り方を変えることの方が、ずっとむつかしいにちがいない」とある。雑誌「暮しの手帖」初代編集長が残した言葉をまとめた三冊の選集に共通するのは、個人の営みから社会を見渡す目線、そして、権力者が個人の営みを奪おうとするのを、もう二度と許さない決意だ。

一九四一年、花森は大政翼賛会の宣伝部に入り、「戦意高揚」「生産増強」を目的とする宣伝物を作った。後に「当時は何も知らなかった、だまされた。しかしそんなことで免罪されるとは思わない」「過去の罪はせめて執行猶予にしてもらっている」と語った。

生活に美しさを宿す方法を探し続けたのも、広告を入れない雑誌作りで批評を存分に注いだのも、戦後を生きる人々の声を丁寧に拾い上げたのも、「執行猶予」という自戒があったからなのだろう。

時系列ではなく、「美しく着ることは、美しく暮すこと」「ある日本人の暮し」「ぼくらは二度とだまされない」と題した三つのカテゴリーに分けて編まれており、この整理によって、花森の思いが再びの強度を宿して放たれている。

美しさとは、手つかずの状態に宿るのではなく、働く人からこそ生まれなければならない。日本中を歩き回り、「いわば名もない人たちの、ありのままの暮し」を記録し続けた。暮しを切り取った写真に添えられた丁寧な説明文もいい。夫を亡くしたある女性の家では、夕ご飯を済ませた後、机が二つしかない一間で四人の子どもが勉強していた。本屋さんがないその村では、「ほしいときには、バスの車掌にたのんで買ってきてもらう」。生活の断片こそが、いつも主役だった。

人がいて、国がある。この順番を、ひっくり返してはいけない。国に翻弄(ほんろう)されたからこそ、国を疑い続けた。「しかし、いまの日本のように、べつになんにもしてくれないで、いきなり、みずから〈くに〉を守る気概を持て、などといわれたって、はい、そうですか、というわけにはゆかないのである」。一九六九年に書かれた原稿を、今、この二〇二一年にそのまま〈くに〉に差し出したくもなる。

今日も明日も、いつものように暮すというのは、そう単純なものではない。起きて、着て、食べて、歩いて、話して、聞いて、学んで、寝る。それぞれの積み重ねが、その家の、地域の、暮しとなる。個人の暮しより大切なものなんてない。「二度とだまされない」と誓った言葉が優しく強く響く。
花森安治選集 第1巻 / 花森 安治
花森安治選集 第1巻
  • 著者:花森 安治
  • 出版社:暮しの手帖社
  • 装丁:単行本(500ページ)
  • 発売日:2020-05-30
  • ISBN-10:4766002164
  • ISBN-13:978-4766002164
内容紹介:
戦後直後の激動の昭和において、『暮しの手帖』の初代編集長・花森安治が、ペンの力で庶民の暮しをより良くしようと提言してきた散文、随筆、評論、コラムから厳選収録した選集全3巻を刊行し… もっと読む
戦後直後の激動の昭和において、『暮しの手帖』の初代編集長・花森安治が、
ペンの力で庶民の暮しをより良くしようと提言してきた散文、随筆、評論、コラムから厳選収録した選集全3巻を刊行します。
1巻では、花森が敗戦後すぐに服飾評論家として世に出たころの「衣」を中心とした稀有な著述で構成。
服飾デザインとは何か、身だしなみや着こなし、色彩感覚の大切さ、装いの基本を読者に伝えるとともに、
ユーモラスな調子と時に毒をも持って説いた「ほんとうの美しさ」とは何か。花森安治の「衣」を通じた美学がつまった一冊です。

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朝日新聞

朝日新聞 2021年01月23日

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