自著解説

『近世日琉関係の形成―附庸と異国のはざまで―』(名古屋大学出版会)

  • 2024/04/01
近世日琉関係の形成―附庸と異国のはざまで― / 木土 博成
近世日琉関係の形成―附庸と異国のはざまで―
  • 著者:木土 博成
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(442ページ)
  • 発売日:2023-12-25
  • ISBN-10:4815811423
  • ISBN-13:978-4815811426
内容紹介:
近世日本の外部にして島津氏の「属国」──琉球王国の両義的地位はいかに確立したのか、幕府と琉球のチャネルたる薩摩を主軸として立体的かつ動態的に把握。琉球使節の実態や海禁・華夷秩序との関係に新たな光をあて、朝鮮との比較も視野に日琉関係の全体像を鮮やかに一新する。

江戸幕府と、薩摩藩と、琉球と 三人寄れば…

1609年(慶長14年)に島津氏の軍事侵攻に屈した琉球は、これ以降、薩摩藩島津氏の影響下に入った。このたび公刊した『近世日琉関係の形成』では、16世紀~19世紀を対象に、近世の日琉関係がどのように形成され、そこにいかなる特徴があるかを論じた。日琉関係というからには、扱ったのは二者関係である。その一方で強く意識したのは、江戸幕府(将軍)―薩摩藩(島津氏)―琉球(尚氏)の三者関係である。

ここからいつもの授業の調子で、話は脇道にそれる。ひとくちに酒席といってもいろいろで、学会やイベントの打ち上げで何十人も集まっての立食パーティーもあれば、五~六人で、表には出しにくい話で盛り上がる密談の形式もある。正直な話、わたしは大勢の飲み会があまり得意ではない質で、好むのは少人数、たとえば二人で飲んだり、三人で飲んだりする席である。

一対一のサシ飲み(二人飲み)は、若い人ならまずはデートが思い浮かぶであろうか。デートでなくても、なにか相手に特別なお願いがあるときには、一対一で申し込むのが礼儀だろうし、大勢で飲んだ帰りに、家が近くの人ともう一杯といって、二人で居酒屋に入るケースもよくある。こうした二者間で結ばれる関係性、たとえば会計の際にどちらが多く支払うかといった社会関係を、シンプルに二者関係と呼んでみよう。それは、目の前の相手に配慮し、向き合わなければいけない厳しい関係性である。一方が他方をさしおき、テーブルで新聞やスマホにうつつを抜かしたり、あるいは驕ってもらったのに礼も言わずに出て行くのは、マナー違反である(家族は例外ヵ)。

では三人で飲むときはどうか。三者の社会関係は、二者の関係よりもいくぶん緩い。話者一人に対し、聞き手は二人いるので、すこし気楽に人の話を聞くことができ(聞き流せ)、酒のメニューを凝視することもしやすい。友人同士のフラットな三者関係ならなお気楽であるが、最近は上下関係を伴う席が多くなってきた気がする。だれが上位かは、猿なら目を合わせれば判明するが、人間の場合は少々複雑で、年齢の上下、役付の有無や職階、先例、ゲストかホストか、個人間の貸し借りの有無、といったいろいろな要素で決まる。

上位・中位・下位のうち、立場はどれが強いかといえば、より上の方が強いに決まっている。この本で描きたかったのは、そうした上意下達式の構造ではなく、中位という間の存在がいることによって生じる複雑さである。

下位にしてみれば、普段は上にのしかかっている中位に頭が上がらない。それでも、中位のさらに上の上位を意識することで、中位の高がしれ、なんだか開放感が味わえる。

一方の中位は中位で、自らの権勢だけで、下位に強制力を発揮しえない恐れがある際には、上位の存在を持ち出し、下位への恫喝に迫力をもたせる。ただし、こうした上位の存在は、下位によって自らの存在を相対視されることにつながりかねず、中位にとっては諸刃の剣である。そのため中位は、下位が上位と直接結びつくことを避けようとする傾向があるが、こうした結びつきがときとして中位にとって、有利に働くとの判断がなされた場合、中位自らの仲介のもと、上位と下位にあえて接点をもたせようとする。

上位を江戸幕府、中位を薩摩藩、下位を琉球と読み替えていただければ、おおむねこの本で言いたかった構図のできあがりである。この本では、幕府や藩、琉球王府という組織を対象にしたが、人間が三人集い、そこに上下関係があれば、どこでも生じうる構図ではなかろうか。あるいは、昆虫の世界にも同じ構図があるのだろうか。いろいろな専門の方に、酒席でご意見を伺ってみたいものである。できたら、横並びのカウンター席で。

[書き手]木土博成(九州大学大学院比較社会文化研究院准教授、博士(文学))

【初出媒体】
広報誌『Crossover』49号(2024年3月)
近世日琉関係の形成―附庸と異国のはざまで― / 木土 博成
近世日琉関係の形成―附庸と異国のはざまで―
  • 著者:木土 博成
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(442ページ)
  • 発売日:2023-12-25
  • ISBN-10:4815811423
  • ISBN-13:978-4815811426
内容紹介:
近世日本の外部にして島津氏の「属国」──琉球王国の両義的地位はいかに確立したのか、幕府と琉球のチャネルたる薩摩を主軸として立体的かつ動態的に把握。琉球使節の実態や海禁・華夷秩序との関係に新たな光をあて、朝鮮との比較も視野に日琉関係の全体像を鮮やかに一新する。

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