書評

『往生要集入門 悲しき者の救い』(講談社)

  • 2024/07/29
往生要集入門 悲しき者の救い / 石田 瑞麿
往生要集入門 悲しき者の救い
  • 著者:石田 瑞麿
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(256ページ)
  • 発売日:2024-02-15
  • ISBN-10:4065348439
  • ISBN-13:978-4065348437
内容紹介:
辛い現世を終えて、来世こそは阿弥陀仏のすまう極楽浄土に生まれたい――貴賤を問わず日本で幅広く、長きにわたって信仰されてきた浄土思想。すべては平安時代、一人の僧によって著されたこの書… もっと読む
辛い現世を終えて、来世こそは阿弥陀仏のすまう極楽浄土に生まれたい――貴賤を問わず日本で幅広く、長きにわたって信仰されてきた浄土思想。すべては平安時代、一人の僧によって著されたこの書物から始まった。源信なくしては、法然も親鸞もない。
『往生要集』の訳・校注で知られる著者が、歴史的背景に始まりゆるやかに『往生要集』の構成に沿いつつ、親しみやすい現代語訳を随所に示しながら、源信の教えの真髄を平易に解き明かす。

「予が如き頑魯(がんろ)の者(わたしのような愚かなもの)」と自らを顧みた源信(942-1017年)。智慧や才にめぐまれた一握りの人ではなく、自身を含む多くの罪深い「悲しき者」が救われる道を模索した『往生要集』が、日本の思想・信仰に与えた影響ははかりしれない。
往生を目指すべき理由として描かれる等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、阿鼻地獄など数々の地獄も、経典と源信自身の言葉を交えながら、恐ろしい責め苦が生々しく描き出され、それに対応する極楽の姿、そして現代人の想像をはるかに超える仏の姿もあざやかに示される。地獄、極楽、さらに仏の姿は、信仰のみならず、のちの思想、文学、芸術にも大きな影響を及ぼした。『源氏物語』や『栄華物語』、『梁塵秘抄』など、のちの文学作品にみられる『往生要集』の影響も示唆される。
『往生要集』は「集」というその名が示す通り、『無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の浄土三部経をはじめ数多の経典や経典の注釈書の引用によって、往生の要諦を説いたものである。膨大多岐にわたる出典についての解説は、仏教学の泰斗たる著者ならではのものであり、源信が数々の経典のなかから何を重要としていたのかが、次第に浮かび上がってくる。
仏の姿を念じる「観相の念仏」を自らの思想の核とした源信が、「南無阿弥陀仏」と仏の名を口で称えるいわゆる「念仏」、「称名の念仏」に託したものとは何だったのか――。浄土思想の原点に触れる一冊。(原本:『悲しき者の救い――源信『往生要集』』筑摩書房(仏教選書)、1987年)
源信の『往生要集』は日本人の地獄と極楽のイメージを形づくった書物。それを、仏教学者の石田瑞麿氏が細かく丁寧に解説していく。

仏教は因果応報だ。生前の行ない次第で当然地獄に堕ちる。犯した罪の重さや種類ごとに、等活地獄/黒縄地獄/衆合地獄/叫喚地獄/大叫喚地獄/焦熱地獄/大焦熱地獄/阿鼻地獄、の行き先が決まる。等活地獄でも残酷なのにその先は一段進むたび桁違いの苛烈さ。目が回る。

ではどうする。阿弥陀仏の極楽浄土に往生しなさい。まず仏の教えを守ること。特に大事なのは念仏だ。

『往生要集』にいう念仏は、極楽の様子をありありビジュアルに想い浮かべること。蓮華座を観たら仏の頭を観て鼻を観て手を観て、…やってみると難しい。臨終も大切だ。同胞に囲まれ励まされて、最期の瞬間に阿弥陀仏の来迎を体感しなさい。

要するに、インテリ貴族が暇に任せて仏典を読み漁りまとめた極楽往生のマニュアルだ。庶民に実行は無理。法然が後に称名(しょうみょう)念仏(南無阿弥陀仏と声に出して称える)を創始するとやっと浄土信仰が広まった。

本書の初版は一九六七年。半世紀を経た古典が文庫で再刊された。
往生要集入門 悲しき者の救い / 石田 瑞麿
往生要集入門 悲しき者の救い
  • 著者:石田 瑞麿
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(256ページ)
  • 発売日:2024-02-15
  • ISBN-10:4065348439
  • ISBN-13:978-4065348437
内容紹介:
辛い現世を終えて、来世こそは阿弥陀仏のすまう極楽浄土に生まれたい――貴賤を問わず日本で幅広く、長きにわたって信仰されてきた浄土思想。すべては平安時代、一人の僧によって著されたこの書… もっと読む
辛い現世を終えて、来世こそは阿弥陀仏のすまう極楽浄土に生まれたい――貴賤を問わず日本で幅広く、長きにわたって信仰されてきた浄土思想。すべては平安時代、一人の僧によって著されたこの書物から始まった。源信なくしては、法然も親鸞もない。
『往生要集』の訳・校注で知られる著者が、歴史的背景に始まりゆるやかに『往生要集』の構成に沿いつつ、親しみやすい現代語訳を随所に示しながら、源信の教えの真髄を平易に解き明かす。

「予が如き頑魯(がんろ)の者(わたしのような愚かなもの)」と自らを顧みた源信(942-1017年)。智慧や才にめぐまれた一握りの人ではなく、自身を含む多くの罪深い「悲しき者」が救われる道を模索した『往生要集』が、日本の思想・信仰に与えた影響ははかりしれない。
往生を目指すべき理由として描かれる等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、阿鼻地獄など数々の地獄も、経典と源信自身の言葉を交えながら、恐ろしい責め苦が生々しく描き出され、それに対応する極楽の姿、そして現代人の想像をはるかに超える仏の姿もあざやかに示される。地獄、極楽、さらに仏の姿は、信仰のみならず、のちの思想、文学、芸術にも大きな影響を及ぼした。『源氏物語』や『栄華物語』、『梁塵秘抄』など、のちの文学作品にみられる『往生要集』の影響も示唆される。
『往生要集』は「集」というその名が示す通り、『無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の浄土三部経をはじめ数多の経典や経典の注釈書の引用によって、往生の要諦を説いたものである。膨大多岐にわたる出典についての解説は、仏教学の泰斗たる著者ならではのものであり、源信が数々の経典のなかから何を重要としていたのかが、次第に浮かび上がってくる。
仏の姿を念じる「観相の念仏」を自らの思想の核とした源信が、「南無阿弥陀仏」と仏の名を口で称えるいわゆる「念仏」、「称名の念仏」に託したものとは何だったのか――。浄土思想の原点に触れる一冊。(原本:『悲しき者の救い――源信『往生要集』』筑摩書房(仏教選書)、1987年)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年5月25日

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