書評

『あなたの人生の物語』(早川書房)

  • 2017/07/26
あなたの人生の物語  / テッド・チャン
あなたの人生の物語
  • 著者:テッド・チャン
  • 翻訳:公手成幸, 浅倉久志,古沢嘉通,嶋田洋一
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(528ページ)
  • 発売日:2003-09-30
  • ISBN-10:4150114587
  • ISBN-13:978-4150114589
内容紹介:
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく…ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の… もっと読む
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく…ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く塔を建設する驚天動地の物語-ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの塔」ほか、本邦初訳を含む八篇を収録する傑作集。

SFが描く人生

死をモチーフにしたSFがあれば、当然、SFならではの方法で“生”を描く作品もある。当代最高の短編SFの書き手、テッド・チャンの「あなたの人生の物語」(公手成幸訳)は、そのいちばんの成功例。

小説は、語り手の“わたし”が、自分の(実はまだ生まれていない)娘=あなたに向かって、“あなたの人生の物語”を語るという不思議なスタイルをとる。まだ生まれてもいない娘の人生が、どうして語れるのか。そこに、SFならではの仕掛けがある。

語り手の女性は言語学者。ヘプタポッド(七本脚)と呼ばれる宇宙人と意思の疎通をはかろうとするプロジェクトに呼ばれて、彼らの異質な言語をつぶさに研究することになる。たとえば、複雑なグラフィックデザインを寄せ集めたような彼らの文字には、書きはじめも書き終わりもなく、順番に読んでいく文字列より、むしろ絵画やダンスに近い。人間の認識が時間的な順序(原因と結果)に縛られているのに対し、ヘプタポッドはすべてを同時的に認識するらしい。彼らの言語を学ぶにつれ、語り手の認識もしだいに変化し、ものの見方が変わってくる。レムの『ソラリス』と同じく、人類とは異質な知性とのコンタクトによって、人間の側に大きな変化が生じるんですね。本編は、その変化を“あなた”に対する語りというかたちで人生に結びつけることで、SFになじみのない読者の心も揺さぶる。

著者のテッド・チャンは、中国大陸から渡米した両親の間に生まれた中国系アメリカ人。たいへん寡作で、1990年のデビューから現在までに発表した作品は、おそろしくレベルの高い短編15編だけ。そのうちの8編が、前述の作品を表題作とする著者唯一の短編集『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫SF)にまとめられている。神が実在する客観的な証拠にあふれた世界で信仰の本質を問う「地獄とは神の不在なり」(古沢嘉通訳)、SF用語を使わないハードSF「バビロンの塔」(浅倉久志訳)、知性の向上による認識の変容と天才VS天才の対決を描く「理解」(公手成幸訳)など、秀作揃(ぞろ)いです。
あなたの人生の物語  / テッド・チャン
あなたの人生の物語
  • 著者:テッド・チャン
  • 翻訳:公手成幸, 浅倉久志,古沢嘉通,嶋田洋一
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(528ページ)
  • 発売日:2003-09-30
  • ISBN-10:4150114587
  • ISBN-13:978-4150114589
内容紹介:
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく…ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の… もっと読む
地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれ、驚くべき運命にまきこまれていく…ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、天使の降臨とともにもたらされる災厄と奇跡を描くヒューゴー賞受賞作「地獄とは神の不在なり」、天まで届く塔を建設する驚天動地の物語-ネビュラ賞を受賞したデビュー作「バビロンの塔」ほか、本邦初訳を含む八篇を収録する傑作集。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年7月16日

西日本新聞は、九州No.1の発行部数を誇るブロック紙です。
九州・福岡の社会、政治、経済などのニュース、福岡ソフトバンクホークスなどのスポーツ情報を提供します。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
大森 望の書評/解説/選評
ページトップへ