書評

『華竜の宮』(早川書房)

  • 2017/07/29
華竜の宮  / 上田 早夕里
華竜の宮
  • 著者:上田 早夕里
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(398ページ)
  • 発売日:2012-11-09
  • ISBN-10:4150310858
  • ISBN-13:978-4150310851
内容紹介:
ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は"魚舟"と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす-。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

水没する世界

日本SF史上最大のベストセラーと言えば、もちろん、小松左京『日本沈没』(1973年)。光文社カッパ・ノベルスで上下巻合計385万部を売ったというからすさまじい。出版史に残る作品だけに、のちのSFにも大きな影響を与えている。たとえば、藤崎慎吾『ハイドゥナン』(2005年)は、“隠れマッド・サイエンティスツ”を自称する科学者たちが日本政府から資金を引き出し、巫女(みこ)の力を借りて“日本沈没”を止めようとするスリリングな海洋本格SFだ。

一方、「ベストSF2010」国内篇で1位を獲得、11年の第32回日本SF大賞を受賞した上田早夕里『華竜の宮』(ハヤカワ文庫JA)は、世界が水没に瀕(ひん)した25世紀が背景。ホットプルーム(地球の核に熱せられて上昇してくる高温のマントルの流れ)の活性化がもたらした海底隆起により、海面は現在より約260メートルも上昇。陸地の大半は海に沈み、世界人口は激減。残された人々は、わずかな陸地および海上都市に暮らす陸上民と、遺伝子改変により海に適応した海上民とに分かれている。

主人公の青澄誠司(アオズミセイジ)は、日本群島近傍の海上都市エア01に置かれた日本政府の外洋公館に勤務する外交官。脳波通信でつねに接続しているアシスタント知性体(人工身体をまとい、ロボットとして活動することもある)の支援を受け、高度な情報処理をこなしている(小説の大部分は、このAI“僕”の一人称で語られる)。青澄は、アジア海域における海上民と陸上民の対立を解消すべく、多数の海上民を束ねるオサとの会談に臨む。だが、その一方、地球は残された人類にさらなる試練を与えようとしていた……。

プルームテクトニクス理論にもとづく最新の地球科学、〈獣舟〉と呼ばれる奇怪な生物の驚くべき生態、歪(ゆが)んだバイオテクノロジー、外交術を駆使した政治的な駆け引き、手に汗握る海中での戦闘……。エンターテインメントのあらゆる要素を詰め込んだ迫力満点の大長編。姉妹編に、本書の前日譚にあたる『深紅の碑文』(2013年)がある。
華竜の宮  / 上田 早夕里
華竜の宮
  • 著者:上田 早夕里
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(398ページ)
  • 発売日:2012-11-09
  • ISBN-10:4150310858
  • ISBN-13:978-4150310851
内容紹介:
ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は"魚舟"と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす-。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

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西日本新聞

西日本新聞 2015年7月21日

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