書評

『父の四千冊 アイスランドのアーティストによる回想』(作品社)

  • 2025/09/20
父の四千冊 アイスランドのアーティストによる回想 / ラグナル・ヘルギ・オウラフソン
父の四千冊 アイスランドのアーティストによる回想
  • 著者:ラグナル・ヘルギ・オウラフソン
  • 翻訳:小林 玲子
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(250ページ)
  • 発売日:2025-07-02
  • ISBN-10:4867930970
  • ISBN-13:978-4867930977
内容紹介:
父が他界して八年、遺された四千冊の蔵書アイスランドのアーティストである著者が、父の遺した大量の蔵書と向き合う日々を綴った、書物と喪失をめぐるメモワール。 出版社を経営していた父… もっと読む
父が他界して八年、遺された四千冊の蔵書

アイスランドのアーティストである著者が、父の遺した大量の蔵書と向き合う日々を綴った、書物と喪失をめぐるメモワール。

出版社を経営していた父親が他界して八年。著者は、父の蔵書四千冊の整理という一大事業にようやく手をつけた。父親が蒐集していたアイスランドの名もなき人びとによる膨大な記録の書を読み、人びとの電車の中での過ごし方を観察し、レイキャヴィークのレストランで「半分」にされた本に困惑する。大量の蔵書と向き合う日々は、やがて著者を思わぬところへと連れていく──。
何かを残すこと、そして喪うことを中心に自由に思考を繰り広げた、詩的で深みある一冊。二〇一八年アイスランド文学賞ノンフィクション部門ノミネート。

「幸福感と冷感。こういった本には初めて出会う。美と混乱、悲しみ、死、再生に満ちている。書物と詩人〔=著者〕の父親に捧げるレクイエムだ」
――ラグナル・キャルタンソン(現代アーティスト)

********
【目次】
1 喪われた書物を求めて──スケーヴィルズスタージル地域の海と陸の死者たちの記録、一八〇〇~一九五〇年
2 記憶の図書館──ビョルン・エイステインソン自伝
3 書物と偶然──ソイズアウルクロウクル・ディベートクラブ
4 書物と別れる──アイスランドの年代紀および新たな歴史の一葉
5 本のない時代の訪れを前に──墓の彼方の回想
6 旅の終わりの音楽
エピローグ 今日の陽は輝き
訳者あとがき
英語版訳者による注
参考文献

蔵書の始末

×月×日

日を追うごとに強迫観念となってくるのは、蔵書の始末である。図書館は引き取ってくれないし古本屋も買い渋ると予想されるからだ。

ラグナル・ヘルギ・オウラフソン『父の四千冊アイスランドのアーティストによる回想』(小林玲子訳、作品社二六〇〇円+税)は、世界一の本好きの国として知られるアイスランドで、作家・ビジュアルアーティスト・出版社経営者として知られる著者が八年前に他界した父の残した四〇〇〇冊の蔵書を前にして心に浮かぶよしなしごとを綴った書物随想である。

僕は今、父の書斎にいる。数か月のうちに、母はこの家を引き払う予定だ。(中略)僕と弟はこれら四千冊をここから出し、ふさわしい場所であろうとなかろうと、どこかに行き場を見つける任を負っている。

最初、機械的に本を処理しようと思うが、自身も父の出版社を手伝ったこともあるため、そうは行かなくなる。子供のころ、父の書斎から本を抜き出して読んだ記憶が蘇ってくるため、どれを処分し、どれを残すかという基準もわからなくなり、分類もできなくなるからだ。いっそ全部売り払おうかと考えるが古本屋もこんな状況だ。

古書の供給は毎年急速に増えるいっぽう、需要のカーブは反対側に弧を描いている。書物を蒐集した最後の世代、書物を(どんな本であれ!)捨てるくらいなら現金をごみ箱に捨てた世代は、もはや棺桶に片足を突っこんでいる。彼らの蔵書が古書店の棚を占拠している。かてて加えて古書店そのものも、一軒ずつ消えていっている。今、レイキャヴィークには二軒しか残っていない。

果たして、蔵書はうまく処分できたのだろうか?極めて「時宜にかなった一冊」である。
父の四千冊 アイスランドのアーティストによる回想 / ラグナル・ヘルギ・オウラフソン
父の四千冊 アイスランドのアーティストによる回想
  • 著者:ラグナル・ヘルギ・オウラフソン
  • 翻訳:小林 玲子
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(250ページ)
  • 発売日:2025-07-02
  • ISBN-10:4867930970
  • ISBN-13:978-4867930977
内容紹介:
父が他界して八年、遺された四千冊の蔵書アイスランドのアーティストである著者が、父の遺した大量の蔵書と向き合う日々を綴った、書物と喪失をめぐるメモワール。 出版社を経営していた父… もっと読む
父が他界して八年、遺された四千冊の蔵書

アイスランドのアーティストである著者が、父の遺した大量の蔵書と向き合う日々を綴った、書物と喪失をめぐるメモワール。

出版社を経営していた父親が他界して八年。著者は、父の蔵書四千冊の整理という一大事業にようやく手をつけた。父親が蒐集していたアイスランドの名もなき人びとによる膨大な記録の書を読み、人びとの電車の中での過ごし方を観察し、レイキャヴィークのレストランで「半分」にされた本に困惑する。大量の蔵書と向き合う日々は、やがて著者を思わぬところへと連れていく──。
何かを残すこと、そして喪うことを中心に自由に思考を繰り広げた、詩的で深みある一冊。二〇一八年アイスランド文学賞ノンフィクション部門ノミネート。

「幸福感と冷感。こういった本には初めて出会う。美と混乱、悲しみ、死、再生に満ちている。書物と詩人〔=著者〕の父親に捧げるレクイエムだ」
――ラグナル・キャルタンソン(現代アーティスト)

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【目次】
1 喪われた書物を求めて──スケーヴィルズスタージル地域の海と陸の死者たちの記録、一八〇〇~一九五〇年
2 記憶の図書館──ビョルン・エイステインソン自伝
3 書物と偶然──ソイズアウルクロウクル・ディベートクラブ
4 書物と別れる──アイスランドの年代紀および新たな歴史の一葉
5 本のない時代の訪れを前に──墓の彼方の回想
6 旅の終わりの音楽
エピローグ 今日の陽は輝き
訳者あとがき
英語版訳者による注
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週刊文春 2025年7月31日

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