書評
『男と女のワイン術』(日本経済新聞出版社)
蘊蓄よりも好みを持つこと
すわバブル!? 『男と女のワイン術』なんて題名からはそんな感慨を抱いてしまう。「ワイン詳しいんですか。今度、教えてくださいね」なんて男女の会話は、いまどき思い浮かばない。浮かぶのはワインの蘊蓄(うんちく)を披露する男の話を女性が冷ややかに聞いている光景の方か。女性の方がワインに関心も知識も持っている時代。相手が若ければ「お酒? 飲みますよ、私、ゆずはちみつサワーください」なんて、男ががっくりする光景も目に浮かぶかもしれない。若者、酒飲まないし……。
さて、本に目を通してみる。初心者が覚えるべきは、ボルドーの5大シャトーの名前などではなく、最低限のぶどうの品種と「渋味」「酸味」といったワインの味の表現を体で覚えること。また、あれこれワインを飲み比べるより、ひとつの銘柄を飲み続けることで、自分の好みを理解できるようになると説く。本書の最終目的は「自分の好み」を見つけ「自分でワインを選べるようになる」こと。予想と違い、地に足が着いている。
トリビアルな蘊蓄やワインにまつわる洒落(しゃれ)た会話。そんな内容を期待し、ちょっと下心を持って読み始めもしたが、こうした考えは時代錯誤なのだろう。
昨今、ワインの消費量は、過去最高を記録。空前のワインブームだが、ボージョレがもてはやされたバブル経済期、97年ころのポリフェノールで沸いた赤ワインブームのときとは様子が違う。安価なニューワールドのワインの輸入増と、ワインバルなどワインを出す外食店舗の増加がその背景にある。日本人の生活にかつてないほどワインが身近になった。
そんな時代だからこそ、ワインに関して、きちんとした自分の好みを持ち、しかも知識や蘊蓄はひけらかさないで秘めておく方がモテそうだ。保証はできませんが。
朝日新聞 2015年6月28日
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