書評
『ビール職人、美味いビールを語る』(光文社)
ビールは生き物なんです
ビールがおいしい季節になりました、というのは手紙の書き出しの定番だけれども、ほんとビールがうまい。うまいビールをもっとうまく飲みたい! というわけで山田一巳・古瀬和谷『ビール職人、美味いビールを語る』を読んだ。山田はキリンビールで「ハートランド」や「一番搾り」などの開発にかかわり、現在は八ケ岳の地ビール醸造長を務める。ノンフィクション・ライターの古瀬が聞き書きしたのが本書だ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2002年)。
うまいビールの飲み方紹介というよりも、ビール職人の半生記というべき本なのだが、山田の人生を通して、ビールとは何かが見えてくる。
最初のほうに、「ビールというのは生き物なんです」という山田の言葉が出てくる。大麦を発芽させるのも、モルトのデンプンが酵素の作用で糖化するのも、酵母の力でアルコールと炭酸ガスを発生させる発酵も、すべてが自然の力。職人の仕事は機械の操作ではなく、麦芽や酵母の機嫌をうかがい、彼らをうまく働かせること。
山田は発酵過程で酵母に「もうちょっと(糖分を)食ってくれよ」と囁きかけたという。
できあがったビールも生きている。注ぎかたにもコツがあるし、買ったビールは早く飲んだほうがいい。日向に置きっぱなしなんてもってのほか。運ぶときも飲むときも、生き物だと思って優しく扱え。
相原恭子『もっと知りたい!ドイツビールの愉しみ』(岩波アクティブ新書)は、ビールを切り口にしたドイツ案内。このなかに、なぜ修道院でビールが造られたのかが出てくる。かつてビールは断食の飢えをしのぐ「飲むパン」であり、伝染病から身を守る安全な水だったのだとか。
相原の本に出てくる、ホテルつき醸造所レストランというのがうらやましい。ビール工場にレストランが付属していて、できたてのビールを飲めるし、酔っぱらったらそのまま泊まれるというのだ。これならクルマで行っても大丈夫。だれか日本にも造ってくれ!
ALL REVIEWSをフォローする