書評

『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新社)

  • 2017/08/22
33年後のなんとなく、クリスタル / 田中 康夫
33年後のなんとなく、クリスタル
  • 著者:田中 康夫
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(352ページ)
  • 発売日:2014-11-26
  • ISBN-10:4309023347
  • ISBN-13:978-4309023342
内容紹介:
日本の“黄昏”を予見したベストセラーから33年。80年に大学生、今は50代となった“彼女たち”の思いに迫る、話題騒然の長篇!

キラキラしてはいられない

『なんとなく、クリスタル』(なんクリ)が刊行されたのは81年。海外ブランドに囲まれた女子大生・由利のリッチな消費生活を描き社会現象となった小説の33年ぶりの続編は、かつての登場人物たちが33年後の東京で再会するところから始まる。

新装版 なんとなく、クリスタル  / 田中 康夫
新装版 なんとなく、クリスタル
  • 著者:田中 康夫
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(248ページ)
  • 発売日:2013-11-06
  • ISBN-10:4309412599
  • ISBN-13:978-4309412597
内容紹介:
1980年東京。大学に通うかたわらモデルを続ける由利。彼女の目から日本社会の豊かさとその終焉を見つめた、永遠の名作。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

彼女らを結びつけるのは、ソーシャルメディア。フェイスブックを介して再びつながり、同窓会のような形で「女子会」が開催される。

相変わらずこの世界の住人たちは学歴や有名レストランなどの「高級ブランド」にまみれた生活を送っている。だが、50歳を過ぎると「クリスタル」のようにキラキラしてばかりはいられないのだろう。会話の中身は、介護や健康問題に流されていく。ごくありふれたシニア層の会話。さらには都心の青山辺りも高齢者で溢(あふ)れ、都会の限界集落となりつつあるという会話も飛び出す。この国のその後の経済の衰退が、この辺りの会話から漏れ出ている。

かつてはモデルだった主人公の由利も、その後、外資系ブランドのプレスを経て、いまはアフリカで社会貢献をする社会起業家になっている。こうした現代的なモチーフを織り込んでくる辺りが、さすが田中康夫。

33年前の「なんクリ」の巻末には、人口問題審議会の出生力動向報告の引用が置かれていた。これから日本が少子高齢化を迎えることがデータ的に示された時代。「なんクリ」は、そんな時代の若者像を描いた青春小説だった。

あれから33年。高齢期に差し掛かろうというクリスタル世代に差し迫りつつある現実の社会。それを描写した本作は、33年前から書かれるべくして書かれた小説なのだろう。読み終えて感じたのは、田中康夫の問題意識が、最初の作品からぶれてなかったということだ。
33年後のなんとなく、クリスタル / 田中 康夫
33年後のなんとなく、クリスタル
  • 著者:田中 康夫
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(352ページ)
  • 発売日:2014-11-26
  • ISBN-10:4309023347
  • ISBN-13:978-4309023342
内容紹介:
日本の“黄昏”を予見したベストセラーから33年。80年に大学生、今は50代となった“彼女たち”の思いに迫る、話題騒然の長篇!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年12月28日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
速水 健朗の書評/解説/選評
ページトップへ