書評
『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新社)
キラキラしてはいられない
『なんとなく、クリスタル』(なんクリ)が刊行されたのは81年。海外ブランドに囲まれた女子大生・由利のリッチな消費生活を描き社会現象となった小説の33年ぶりの続編は、かつての登場人物たちが33年後の東京で再会するところから始まる。彼女らを結びつけるのは、ソーシャルメディア。フェイスブックを介して再びつながり、同窓会のような形で「女子会」が開催される。
相変わらずこの世界の住人たちは学歴や有名レストランなどの「高級ブランド」にまみれた生活を送っている。だが、50歳を過ぎると「クリスタル」のようにキラキラしてばかりはいられないのだろう。会話の中身は、介護や健康問題に流されていく。ごくありふれたシニア層の会話。さらには都心の青山辺りも高齢者で溢(あふ)れ、都会の限界集落となりつつあるという会話も飛び出す。この国のその後の経済の衰退が、この辺りの会話から漏れ出ている。
かつてはモデルだった主人公の由利も、その後、外資系ブランドのプレスを経て、いまはアフリカで社会貢献をする社会起業家になっている。こうした現代的なモチーフを織り込んでくる辺りが、さすが田中康夫。
33年前の「なんクリ」の巻末には、人口問題審議会の出生力動向報告の引用が置かれていた。これから日本が少子高齢化を迎えることがデータ的に示された時代。「なんクリ」は、そんな時代の若者像を描いた青春小説だった。
あれから33年。高齢期に差し掛かろうというクリスタル世代に差し迫りつつある現実の社会。それを描写した本作は、33年前から書かれるべくして書かれた小説なのだろう。読み終えて感じたのは、田中康夫の問題意識が、最初の作品からぶれてなかったということだ。
朝日新聞 2014年12月28日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする


































