書評
『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP研究所)
社会正義を盾にした自己愛
「他人を攻撃せずにはいられない人」とは誰のことか。別に暴力癖のある人のことではない。例えば、仕事で成功したことを上司に伝えても、ほめられもねぎらわれもせず、今までの給料を考えたら当たり前だと上司に言われ、意欲を失ってしまうみたいな経験はないだろうか? この上司は、相手をけなすことで他人を無価値化しているのだという。目的は、自分の価値=「自己愛」を保つため。攻撃される側にしてみれば理不尽な話だ。しかし彼らは、自分を正当化する巧みな技法をもって、相手に非があるように思わせて攻撃を仕掛けてくるのだという。
本書は、精神科医の著者が、日常のコミュニケーションで他人に精神的ダメージを負わせるある種の人々の存在を事例とともに紹介し、考察するものだ。
こうした攻撃欲、支配欲の強い人々は「自分のあずかり知らぬところで、ターゲットが能力を発揮したり楽しみを見出したりすることに耐えられない」から生まれる。腑(ふ)に落ちたのは、彼らが「社会で一般的に受け入れられている『正しい』ことを引き合いに出すのが好き」という部分。これらの指摘からは、現代の社会の諸問題の根本が見えてくるような気がした。
例えば、モンスターペアレントやクレーマーといった問題はどれも、社会正義を盾に自己愛を押しつけてくるところに問題があるように見えてくる。
本書が注目されているのは、こうした現代の諸問題について考えるヒントを与えてくれるからだ。著者に分析して欲しかったのは、ネット炎上問題だ。昨年話題になった「バカッター」問題の分析は、本書にも書かれている。だが問題の本質は、社会正義を背景に過剰に対象を攻撃し、制裁を加えた「叩(たた)く側」にこそあるように思う。まさにネット炎上こそ、社会正義を盾にした自己愛なのではないか。
朝日新聞 2014年6月1日
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